「認知症の保険」が売れているワケ
いま保険会社は「認知症」に備えた商品や特約を相次いで登場させています。背景には、シニアの資産を管理する信託商品や、事故などの際に賠償金を賄う保険など、家族の金銭的負担をカバーする保険を求める声が年々、強まっていることがあります。
2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に。2030年には認知症患者が保有する金融資産は、200兆円に達すると試算されています。*1
認知症を発症すると、金融商品の多くは契約できませんし資金も引き出せません。そうした不安や心配を逆手にとって保険会社が認知症保険を次々と販売し、契約者を増やしているようです。もちろん保険会社も新しい商品を販売しないと利益が得られません。
保険会社に入るとまずは家族・親族、知人に商品を売らなければいけません。その際、認知症保険は売りやすいコンテンツともいえるでしょう。
「認知症保険」の注意点
若いうちに加入していれば現金給付を受けられるのが「認知症保険」のメリットです。バリエーションも豊富になってきていますが、どこに加入すると良いのか迷います。
認知症保険のデメリットを先に言えば、認知症は全ての人がなるわけではありません。
当初の保険料を低く抑えていても、毎月の保険料は数十年間に渡り支払い続けなけらばなりません。これはかなりの負担です。
現役時代はお金に余裕があったとしても、定年後や年金だけの生活になったとき、家計を圧迫することもあります。ましてや「認知症保険」の多くには解約払戻金がありません。認知症にならなければ払い損です。
認知症保険の内容は正直、難しいです。公的介護保険の不足分をどのように補填するのか、一時金がいくらで介護年金が何年支払われるのか、など商品別に計算するのは専門家でないと分かりません。
認知症保険に入る必要はない
そもそも認知症保険とは何なのか。資料を取り寄せると「認知症に特化した保障性商品で介護保険の一種」とあります。意外と知らない方も多いのですが、国の介護保険は要介護状態などの条件を満たせば認知症はカバーできます。
極端に言えば、介護保険に入っていれば、あえて認知症保険に加入する必要はないのです。ではなぜ保険会社の認知症保険に入るのでしょう。
認知症保険のタイプは2つに大別できます。1つは各社が設定する「認知症」と診断された場合、一時金や年金が受け取れる「治療保障」タイプ。(生命保険会社)
2つめは、認知症患者が第三者に損害を与えたり、ケガをした場合の費用を補填する「損害補償」タイプです。(損害保険会社)
つまり、認知症で施設に入る場合は数百万円の一時金(入居金)などの費用が掛かる場合があります。それらを保険で賄えるのがメリットです。そして認知症になると特に男性は乱暴になったり、予期せぬ事態を引き起こしたりします。そうした時の損害を補償してくれるのです。
「一時金型」と「年金型」で備える
ボクのグループホームにも様々な認知症の方が暮らしています。働く前は「認知症」は同じような症状だと思っていましたが、間違いでした。誰一人、同じではないのです。そして症状は時間とともに変わっていきます。それだけに一人一人の認知症を把握するのには時間がかかります。
もし民間の認知症保険に加入するのであれば「一時金型」と「年金型」をチェックする事をおすすめします。
一時金型は、施設の入所費用などに充てられるので便利です。「年金型」は自宅で介護を受ける場合は定期的に支給されるので安心です。
しかし、認知症になっても保険会社が定めている症状が続かないと保険金が支給されないタイプがあります。ここは本当に注意してください!保険に加入する際は担当者や専門家にしっかりと疑問点を聞くことは重要です。
有名な「認知症保険」を比べてみました
2020年7月現在、「認知症保険」と呼ばれる商品は増えてきています。ここでは有名な認知症保険の特長や内容を簡単にまとめてみました。
第一生命・大手だけど安心はできないワケ
契約年齢は40~85歳。3つの安心で不安に備えているそうです。具体的には①要介護状態に一時金、②予防から保険金の受取をサポート、③持病があっても入りやすい。
第一生命は、特別に高齢者層に特化した戦略を掲げているわけではないようです。大学やベンチャー企業との共同研究・業務提携を展開しているのが特徴ですね。
認知症保険の販売実績は、2018年12月18日の発売してから約1年で申込件数ベースで5万件突破と好調のようです。しかし大手の保険会社のわりには動きが遅いイメージがあります。同業大手が本格的に乗り出す今、殿様商売を続けていたら危険かもしれません。
SOMPO「保険と介護の連動」は上手くいくか?
介護にも力を入れているSONPOは保険商品との連動を狙って動いている印象です。
広告代理店も上手に使ってPR効果を高めているようなイメージもあります。例えばキャッチコピーも「軽度認知障害・認知症に対する保障であなたと家族をサポート」という感じです。
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命はグループ全体で認知症への対応方針を明確に打ち出しています。強みを活かしているのは認知機能チェックから予防・介護までを一貫してサポートするサービスを提供していることです。
たしかSONPOは障がい者の雇用もすすめていたように思います。介護福祉をどのようにビジネスと結びつけるのか、興味はあります。しかし昨今のSNS炎上のように悪い噂が飛び交うと反転に回る恐れもあります。
太陽生命は老舗だけど、存在感うすめ
太陽生命は、2014年度から「シニアマーケットのトップブランドを目指す」ことを掲げ、介護・認知症分野に限らず、高齢化(長生きリスク)に対応した商品開発に力を入れています。いわゆる認知症の老舗です。
専門知識を有する社員が直接訪問してサポートする「かけつけ隊サービス」など、高齢者目線に立った独自サービスも行っていますね。しかしイマイチ影が薄い。なぜ効果的な宣伝をしないのか、疑問です。たぶん、マジメすぎるのかもしれません(笑)
朝日生命の本社移転は吉となるか?
朝日生命も認知症保険では老舗です。ここは「介護保険の保有契約件数業界No.1」を掲げています。拡大していくシニアマーケットを狙うのはセオリーです。ただ太陽生命と同様にいまいち存在感が薄いような気がします。
例えば「あんしん介護シリーズ」は介護保障保険の枠組みとして位置付けられていますが、何が安心なのか漠然としない。もう少しキャッチコピーを意識すると加入者にも分かりやすいと思うのです。
最近のニュースを見ると本社移転をしたようですね。コロナ渦での移転が吉とでればよいですが、認知症にはあまり関係なさそうです。
さらに安心したい時に検討すべきこと
認知症保険は、各社それぞれに保障内容も異なり保険料だけの比較はできません。しかし殆どの商品に男女の保険料設定に差があります。もちろん長生きする女性の方が高めです。
最初にも伝えましたが基本的に認知症は介護保険でカバーできます。だから心配しすぎることはないのです。むしろ重要なのは「予防」という観点です。認知症は予防が大切だということが分かっており、保険でも予防機能を付けたものなど進化しています。
現在、政府の成長戦略の内容を踏まえると「予防に重点を置いた保険商品と最新技術を活用した実効性のある付帯サービス」が今後の生命保険における商品・サービスの主流になっていきそうです。
コロナ渦においても堅調だった保険商品は、他社との差別化を図りながら「認知症予防・認知症保険」が増えてきそうです。しかし無闇に加入するのではなく、認知症の可能性や金銭面、将来設計を踏まえて検討することをおすすめします。
本日もありがとうございます。
*1:出所)第一生命経済研究所