介護福祉オンライン

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認知症で食べない。要介護4の症状とケア、食事介助で役立つ声かけ事例

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大正のキャリアウーマン

認知症に対応した施設、グループホームには個性的なお年寄りが多いです。

 

今回の主人公は関西出身。レビー小体型の認知症、94歳のキヨさん(仮名)です。 

 

キヨさんは長年、東京で暮らしていますが、認知症になってから関西弁で喋るようになりました。

 

大正生まれのキヨさんは若い頃は大手金融機関で働き、海外勤務も経験しています。

 

いわゆるバリバリのキャリアウーマンであったわけです。 

 

身長は小柄で、キレイな白髪を整えています。

 

若い頃はさぞやオモテになっただろうと思うほど上品なおばあちゃまです。

 

頭の回転がはやい

 

キヨさんの要介護度は4です。

 

移動は車椅子を使います。筋力も衰えているため姿勢は前かがみが基本。

 

リビングでくつろいでいる時は、テレビと会話するのが日課です。

  

認知症になると脳の中で、好き、嫌い、快い、不快という感情と結びつく「偏桃体」という部分が敏感に反応します。

 

キヨさんの場合は、この偏桃体が「言葉」によって敏感に反応するようです。

 

ニュースが流れると出演者よりも、その声に敏感に反応します。

 

例えば、アナウンサーが天気について説明していると、明日の気候よりもアナウンサーの声が気になるようで。大きな声で真似をして独り言をつぶやきます。

 

 

アナウンサー「あしたは雨の確率が高いようです」

キヨさん「あしたは雨」

アナウンサー「傘は必要になりそうです」

キヨさん「傘はひつよう」

オレ「では次のニュースです」

キヨさん「・・・・・・いい声」

 

 

とまあ内容よりも、声のいいアナウンサーの言葉を同じように繰り返すのが好きなのです。

 

側から見たら、まるで誰かと会話をしているようです。

 

たまたま来所した他の利用者の家族は驚かれたりします。

 

 

毎日爽快

 

レビーのキヨさん

 

キヨさんはレビー小体型認知症です。

 

レビー小体型はアルツハイマーに次いで多い症状で、脳血管性認知症とともに三大認知症といわれています。

 

症状としては幻視という実際には見えないものが見えたり、頭がはっきりしているときとそうでないときの差が激しかったりします。

 

関西人のボケなのか、本当の呆けなのかわからないことも少なくありません。

 

例えば九九の問題を出したりすると。

 

 

オレ「キヨさん、4✖️4はいくつ?」

キヨさん「シシ、16や」

オレ「じゃあ7✖7は?」

キヨさん「シチシチ、49や」

オレ「さすがだねえ。それじゃ10✖10は?」

キヨ「20!」

 

 

そのときキヨさんの顔は、なぜか誇らしげです。

 

 

 

 

「神戸」大作戦

 

キヨさんは頑固です。自分が納得しないと動こうとしません。

 

食事でも好物ならば「うまい、うまい」とパクパク食べます。

 

しかし嫌いな物が出ると、ちょこっと箸をつけて一切、口にしません。

 

困るのは飲み物です。気分によって飲まないことも多いのです。

 

スタッフが促しても「お腹いっぱいやあ」と言ってフリーズ状態になります。

 

じゃあ飲まなくて良いのかというと現場では日々、記録をつけていますので水分量が足りないと心配です。

 

ご存知のように水分摂取は重要です。

 

僕のグループホームでは1食に200CCの摂取を目安にしています。

 

ごはんやおやつの時間などを合わせて1000CCです。

 

もちろん全量摂取が正義ではないですが、それはまた別の話で。

 

とにかく機嫌が悪い日は何も飲もうとしないのは健康面からも心配です。

 

初心者の頃、僕はこうキヨさんに声かけをしていました。

 

 

オレ「キヨさん、水分とりましょう」

キヨさん「いやや。飲みたくない」

オレ「飲まないと身体によくないですよ」

キヨさん「知らん。あんさんが飲め」

オレ「おれは腹いっぱいだから」

キヨさん「アタシもお腹いっぱいや」

オレ「ずっと水分とってないよ。頼むから飲もう」

キヨさん「いやや!」

 

 

まあ、こんな感じです。堂々巡り。とにかく口が達者なのです。

 

しかし、おっさん介護士もそれなりに知恵を絞り出します。

 

まず成功したのは故郷作戦です。

 

 

オレ「キヨさん、神戸のコーヒー持ってきたよ」

キヨ「神戸?神戸は故郷や」

オレ「そうなの!(知っている)」

キヨ「神戸はええとこ。大好きや」

オレ「そうなの。じゃあ飲もうよ!」

キヨ「そうやな(コップ持って)あ~うまい」

 

 

認知症の程度によりますが、忘れていない記憶というのはあります。

 

キヨさんは故郷の神戸の思い出は深く脳に刻み込まれていました。

 

そのため「神戸」というワードを出すと敏感に、しかも好意的に反応してくれました。

 

困った時は故郷を思い出してもらう。

 

同じ会話を何度も繰り返しますが、キヨさんのご機嫌はよくなります。

 

しかし認知症の進行が進んできたのか、神戸というワードにも反応しない日が多くなってきました。

 

キヨさんの夢

 

神戸の飲み物だといっても、口にしない日が多くなってきたキヨさん。

 

スタッフは心配です。

 

もちろん僕も心配です。

 

どうすれば食べ物や飲み物を口にしてくれるのか。

 

あの手この手と声かけをしてもダメ。そんなある日のことでした。

 

 

オレ「キヨさん、いま欲しいものある?」

キヨさん「欲しいもの・・・・・・、ないよ」

オレ「こうなりたいとか、夢はない?」

キヨさん「なりたいってなんや?」

オレ「たとえば、元気になりたいとか、旅行にいきたいとか」

キヨさん「・・・・・・」

 

 

今考えるとメチャクチャな質問です。

 

キヨさんも質問の意味を分かっていたのかどうか。

 

しかし、しばらく無言になったあと、こう答えたのです。

 

 

キヨさん「キレイになりたい」

オレ「えっ!?」

 

 

キレイになりたい。92歳のキヨさんはハッキリと言いました。

 

そうかキレイになりたいのか。

 

認知症になっても歳をとっても女性はキレイになりたいのか。

 

僕は驚きとともに感動を覚えました。

 

そして、キヨさんの目の前に置かれたコップを手に取り、こう伝えました。

 

 

オレ「キヨさん!このコーヒーを飲むとキレイになれるよ」

キヨさん「そうなのか・・・・・・」

オレ「うん。キレイになれる。だから飲もうよ」

キヨさん「そうか。キレイになれるなら、飲もうかあ」

 

 

嘘のようなホントの話です。

 

キヨさんは頑なに拒否していた飲み物を口にしてくれたのです。

 

もしかしたら、僕に気を使ってくれたのかもしれませんが。

 

 

 第二新卒エージェントneo/p>

 

奇跡のコトバ

 

愛すべき認知症のキヨさん。

 

その性格や症状を把握するまでには時間がかかりました。

 

しっかりと話すこともあるので「マジで認知症?」と、戸惑うこともありました。

 

現場では、利用者の心に響く「奇跡の言葉」があります。

 

介護の難しい局面、声かけをするときにそうした言葉を知っておくことは重要です。

 

多くの介護士は利用者とのコミュニケーションを通じて、それぞれ「奇跡の言葉」を持っているのだと思います。

 

奇跡の言葉を見つけることは簡単ではありません。

 

介護士と利用者との簡単そうなやりとりにも知られざる歴史があるのです。

 

だからこそ介護は簡単ではないのです。

 

神戸を愛し、いつまでも美しさを忘れなかった大正のキャリアウーマン、キヨさん。

 

最期はご家族とともに施設で看取りを行い、安らかな顔で天国に旅立たれました。

 

そして今思えば、キヨさんからたくさんの奇跡の言葉を頂いたのは、僕自身だったのかもしれません。

 

本日もありがとうございました。