幼児教育・保育の無償化とは
2019年10月の消費税アップと同時にスタートしたのが「幼児教育・保育無償化」です。無償化によって子育て世代の負担が軽減されることが期待されています。
一方、無償化によって保育士不足が進んだりと様々な問題点も浮上しています。
日本で初めて導入される「幼児教育無償化」ですが、世界の先進国では珍しくありません。 この記事では、海外の現状と併せて「幼児教育・保育の無償化」についてまとめてみました。
アメリカ
アメリカ政府は社会的・経済的支援が必要な子どもに「ヘッド・スタート」という保育政策を行っています。この取組みは1960年代半ばに「貧困と闘い」政策の一環としてスタートしました。
ヘッドスタートの目的は、子どもたちに貧困という壁を越えて育つ機会を与えてやることである。また、このプログラムに登録されている子どもたちが、学校に入学して、そこでの学習活動にうまく適応できるように援助してやることである。
3~5歳を対象とした補償保育ですが、1995年からは3歳未満への取組みもスタートしています。
イギリス
イギリスはすべての子どもを対象に「ウエルビーイング」を保障する政策を目指しています。
ウエルビーイングとは身体的、精神的、社会的によい状況にあり、権利や自己実現が確保されていることを意味します。
1998年には、早期介入の補償保育プログラムとして「シュア・スタート」が開始。これは社会的、経済的な支援を必要とする地域を中心に保育や子育ての支援を提供するシステムです。
2010年より3~4歳児(5歳から就学)に週15時間、年38週分を上限に無償化。2014年からは低所得家庭(年収約240万円以下)の2歳児も無償化となっています。
イギリスは教育省が保育制度を管轄しています。特に重要なのは保育の質ですが、イギリスでは監査によって質の担保もしています。
フランス/ニュージーランド
フランスでは、3~5歳の子どものほぼ全員が公立の幼稚園で無料の「保育学校」を利用しています。
ニュージーランドの保育は多種多様です。具体的な保育方法や内容を個々の施設にゆだねているのが特長です。幼児教育はもちろん無償化です。
1996年、保育の質の維持と向上を目指して共通のカリキュラムである「テ・ファルキ」が作成されました。これには保育の原理と目標の方向性が提示されています。
韓国
日本のお隣、韓国では2013年から、0~5歳の子どもの保育と幼児教育をすべて無償化しています。
激しいお受験で知られる韓国ですが、幼児教育にも力を入れているようです。
海外と日本の無償化の違い
日本と他の先進国の大きな違いは「教育」か「保育」か、どちらに重点を置いているかということです。
影響があるのは「時間」です。他の国では幼稚園に相当する時間の無償化が殆どです。
しかし日本で導入している無償化は、保育短時間や保育標準時間に相当する8~11時間です。また認可外保育施設や病児保育、ファミリーサポートなども対象としています。
日本の無償化の問題点とは?
日本では、保育が必要な子どもの費用は世帯収入によって段階的に定められる「応能負担」となっています。
つまり低所得の世帯は実質的に無償化されていました。
しかし2019年の無償化では、認可外保育所でも5年間は一定額の補助金が支給されます。
ただ、これによって最も恩恵を受けるのは高所得の世帯です。
一方、深刻なのは保育の質の問題です。
都市部では待機児童が多く、認定外の施設に通う子どもが大勢います。海外では現場調査や評価するための統一の基準を作ったり「見える化」が進んでいますが、日本は遅れています。
職員の人数配置や施設の広さなどハード面での見直しは予定されてますが、教育や保育の根本的な「人材育成」や「評価の仕組みづくり」は進んでいません。
幼児保育の無償化は喜ばしいことですが、改善すべき5つの問題があります。
簡単に以下にまとめてみました。
- 高所得ほど恩恵を受ける
- 保育士不足が深刻化する
- 教育や保育の質の低下
- ビジョンや工程表がない
- 自治体の負担増
現役世代では所得の低い世帯が増えています。ましてや、今回のコロナ渦によって経済的な支援が必要な子育て世帯も増えています。
これまで日本は先進国に比べて子育支援は出遅れていました。こうした状況からみると一歩前進ですが、急ごしらえの制度設計であるため具体的に動き出すと、様々な課題が残っています。
現場にとって何が重要なのか、僕自身もしっかり考えていきたいです。
本日もありがとうございました。