幼児期の英才教育や早期能力開発は必要なのでしょうか?
海外を見ると1950年代までは、子どもは家庭で母親が育てるべきとの考えが広く浸透していました。そのため今のような就学前の施設などは殆どありませんでした。
これはアメリカの心理学者、アーノルド・ゲゼルの「レディネス(準備性)理論」の影響が大きいと言われています。
ゲゼルは成熟優位性を唱えて、読み書きをはじめとする知識や技能は、子どもが成長してから教育すべきと考えていました。
しかし、このレディネス理論に疑問が芽生える出来事が起こります。
今回は、海外の早期能力開発の流れについて解説していきます。
- アメリカの英才教育はいつから
- ブルーナーの教育の過程~発見学習
- アメリカのヘッドスタート計画とは
- 出木杉くんとイギリスの英才教育
- ウイリアム王子の子供の頃~モンテッソーリ教育
- レッジョエミリア教育
- 英才教育と親のエゴ
アメリカの英才教育はいつから
「子どもは成長してから教育すべし」
この流れを変えたのは1957年、当時のソビエト連邦が人類初の人工衛星の打ち上げに成功してからでした。
冷戦状態にあったアメリカは「え、ヤバじゃん!」と思ったのでしょう。
莫大な教育投資を行い、優れた人材の育成に取り組みます。天才たちを育てる決意をしたのです。
ブルーナーの教育の過程~発見学習
では、どうやって天才を育てるのか。
立役者となったのが教育心理学者で知られるジェローム・ブルーナーでした。
認知心理学の生みの親の一人です。
ブルーナーは、教育者や科学者によって開かれた「ウッズホール会議」の成果をまとめて、1960年に「教育の過程」という本を出します。
この本の中では、どの発達段階の子どもにもやり方次第で様々な知的教科を教えられるという仮説などが示されました。
これが早期能力開発ブームに火をつけたのです。
アメリカのヘッドスタート計画とは
早期能力開発の高まりを受けて、海外では保育施設の整備が進められていきます。
アメリカでは1965年、教育機会の少ない子供たちを対象にした「ヘッド・スタート計画」が開始されました。
ヘッド・スタート計画と聞いてもピンときませんが、その一環で始まった有名な子供向け番組があります。
あの「セサミ・ストリート」です。
セサミ・ストリートは遊びと学びを融合させながら、アメリカの多くの子どもたちの学力の底上げを目指しています。
今もアメリカ政府は子供たちの教育に巨額な予算を注いでいます。
一説には15年前でさえ、日本円で80兆円の予算を組んでいたそうです。それだけ「早期能力開発」に価値があると確信しているのです。
出木杉くんとイギリスの英才教育
英才教育といえば、ドラえもんの出木杉くんが有名ですよね。
英才教育が盛んなイギリスでは1967年、プラウデン報告に基づく「教育優先地域」が定められます。
プラウデン報告とは、イギリスの文部大臣に対し教育中央諮問委員会から提出された報告書であり、この委員会の座長がプラウデン氏でした。
1998年には、早期介入の補償保育プログラムとして「シュア・スタート」が始まります。
これは社会的・経済的支援を必要とする、いわゆる貧しい世帯を中心に保育や子育ての支援を提供するシステムです。
イギリスの保育制度はご存じのとおり、教育省が管轄しています。
ここで監査を行うことで「教育の質」を確保しています。就学前の保育施設が多様なのもイギリス的です。
生後3ヶ月から5歳までの子どもを対象として働く親を支援する「デイナーサリー」。
3歳から5歳までの子どもを対象にして、ボランティアが運営する「プレイグループ。
2歳から5歳の子どもを対象として小学校と同じように休業期間がある「ナーサリースクール。
4歳から5歳の子どもを対象として、就学準備教育をする「レセプションクラス」などがあります。
ウイリアム王子の子供の頃~モンテッソーリ教育
イギリスのウイリアム王子とキャサリン妃の子どもであるジョージ王子。
王族が選んだ英才教育法は「モンテッソーリ教育」でした。
そもそもモンテッソーリはイタリアの女性医師で、モンテッソーリ教育と呼ばれる教育プログラムを開発した人です。
彼女のプログラムを実践する施設は「こどもの家」と呼ばれます。
その教育方法は、子ども自身が発育の計画に従って自分自身を作り上げるというもの。
そこでは彼女が考案した「教具」が使用され、日本でも多く取り入れられています。
このモンテッソーリ教育で重要なのは「良い教育者」と巡り合うことです。
先生の力量が試される教育法でもありますが、モンテッソーリ教育は英才教育や早期教育として海外ても注目されていることには間違いありません。
レッジョエミリア教育
イタリアでは1990年代、長年にわたって積み重ねられたプロジェクト式の教育が「レッジョ・エミリア・アプローチ」として評判になりました。
「レッジョ・エミリア・アプローチ」はシンプルに言えば、個々の意思を大切にしながら、子どもの表現力、コミュニケーション能力、探究心、考える力などを養います。
その特徴がプロジェクト活動という取組で、1つのテーマを長期間(数か月~1年)に渡って子どもたちや保育者、パパママが一丸となって掘り下げていきます。
教育法というよりも、教育理念に重きを置いています。
有名なのが「子どもたちの100の言葉」という詩です。
そこには、子どもは無限の可能性があり、あらゆる権利を持っている。そしてそれは誰に奪われるものでもなく、主体として大切にすることが教育の全てである」といった内容が記されています。
英才教育と親のエゴ
今回は海外の早期能力開発の現状や流れについて解説しました。
この他にも旧ソ連の心理学者、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」の考え方などの研究なども注目されています。
英才教育、早期能力の開発は国際的にも重視されているテーマです。
もちろん日本も遅れを取るわけにはいきません。
しかしながら、あくまでも主体は子ども。大人のエゴで進めるべきものではありません。
我が子は他の子よりも優れている、そう思い込みたいのは親の心情です。
そのためには様々なアプローチ方法を知り、子どもに最もふさわしい能力開発法を見つけてあげるのは親の務めかもしれませんね。
本日もありがとうございました。