「愛着障害」という見えない闇
国では里親制度を推進しています。横山恵子さん(仮名、50代)は夫と二人暮らし。30代のときに夫婦で相談して、施設で育った女の子(当時、4歳)の里親になりました。
里子となった女の子は生まれてすぐに両親が離婚。父親は行方不明、母親は精神的に不安定で子供を育てられる状態ではありませんでした。そのため女の子は小学校の低学年まで養護施設で育ちました。
「殺すぞ、てめぇ」
思春期になると女の子は乱暴な言葉を口にするようになります。そうかと思えば甘えてきたり、ばれるようなウソをついたり恵子さんを困らせる行動を繰り返したそうです。
里子となった子供に多くみられるのが「試し行動」です。これは自分をどの程度まで受け止めてくれるか、愛情を確かめるために相手を困らせる行動をとることです。
困っている子供を助けたい。子育てを通して社会に貢献したいと里親になった恵子さんでしたが、里子を育てるのは決して簡単なことではないと、当時を振り返ります。
海外の里親事情
欧米やオセアニア諸国では里親の委託率が高いです。それらの国ではパーマネンシー理論から主たる養育者が永続的に一貫していることが重視されてきました。パーマネンシーとは、同じ家庭で大人になるまで育つ権利のことです。
また、アメリカでは1940年代にスピッツの論文「ホスピタリズム」により、施設などで生活する子供の情緒的な発達の遅れが指摘されました。そして乳幼児期の養育環境の大切さや愛着形成への関心が高まりました。
これに対し日本では施設養護が圧倒的多数であり、里親委託率も低く批判の対象となっています。時代の流れとともに子供の権利観が大きく変わってきたこともあり、最近になって急速に里親の必要性が高まってきた印象があります。
なぜ里子は育てにくいのか
お試し行動やウソなど愛着障害を抱える要因には、乳幼児期の養育環境や愛着形成が影響しているとされています。
イギリスの精神科医、ジョン・ボウルビーは「乳幼児の精神衛生」により、母性的養育の剥奪が子供に与える深刻な影響を説いています。
ボウルビーは子供の養育において愛情豊かな交流が妨げられたとき、つまり母性的養育の剥奪があったときに、子供に「知的発達の遅れ、情緒表現の未熟、社会性の不足」などの問題がみられることを指摘しました。
そして子供の愛着形成には特定の人との間に結ぶ情緒的な絆が重要であることを強調しています。
これまで日本は世界の流れとは逆境するように、大規模な養護施設で子供を育ててきました。もちろん大規模な養護施設でも職員との間に情緒的な絆を結ぶことはできます。
しかし集団で長期間養育されることは子供にとって身体的・心理的な悪影響を及ぼすことは様々な研究からも明らかです。
愛着の絆
里子の試し行動やウソに悩まされた恵子さんですが、長い年月をかけて信頼関係を強め女の子と愛着の絆を結んでいきました。そして今では実の親子以上に仲が良いそうです。
恵子さんの場合はハッピーストーリーとなりましたが逆のパターンも数多くあります。
里親制度を定着させるためにはリアルな現場の声を行政がもっと吸い上げて、愛着障害を抱えた里子を生まないような社会的養護のあり方が重要だと思うのです。
本日もありがとうございました。
サトシ(@satoshi_Jp0415)でした。