倉橋惣三と名言、育ての心
日本の教育に影響を及ぼしているのが倉橋惣三(くらはし・そうぞう)という人物です。保育士の試験に頻出される教育者です。倉橋の有名な作品がこちらです。
驚く心
おや、こんなところに芽がふいている。
畠には、小さい豆の嫩葉(どんよう・わかばのこと)が、えらい勢いで土の塊を持ち上げている。
薮には、固い地面をひび割らせて、ぐんぐんと筍が突き出して来る。
伸びてゆく蔓(つる)の、なんという迅さだ。
竹になる勢いの、なんという、すさまじさだ。
おや、この子に、こんな力が。……
えっ、あの子に、そんな力が。……
驚く人であることに於て、教育者は詩人と同じだ。
驚く心が失せた時、詩も教育も、形だけが美しい殻になる。
子供が持つ潜在的に能力を独特の言い回しで表現しています。教育者は詩人であるという表現も個性的です。倉橋の人物像を紐解くと、現代の教育者とは違った一面が見えてきます。
児童心理学者としての顔
倉橋惣三は、日本の児童心理学者です。東京大学出身、日本初の幼稚園である東京女子高等師範学校附属幼稚園で園長も務めました。倉橋は海外事情に精通していました。そして形式化したフレーベル主義を排して、恩物(神の贈り物)をかごに入れて自由に遊べる道具にしたりしました。
倉橋は幼児の自発性を尊重した保育理論を展開しています。代表的著作には『幼稚園雑草』『育ての心』『幼稚園真諦』『子供讃歌』があります。
倉橋は、日本初の体系的なカリキュラムといえる「系統的保育案の実際」を提唱しました。これは幼児のありのままの生活から出発して、自己充実→充実指導→誘導→教導と段階的に進む保育の方法です。
生活を生活で生活へ〜誘導保育とは
倉橋の提唱したひとつに「誘導保育案」があります。これは「生活を、生活で、生活へ」という言葉に代表されています。やり方は「導入(動機付け)をして、作業に入り、完成させて、活用する」という展開です。
この基本的な考え方は、現在の幼稚園や保育園で取り入れられています。ちなみに誘導保育案は、著書の「幼稚園保育法真諦(しんてい)」で示されています。
そこでは「幼児教育の第一義は幼児生活の価値を知ること」「幼児の生活それ自身が自己充実の大きな力を持っている」「幼児の生活をさながらにしておくことが大切」だと主張しています。
子供の生活の価値を知り、そこで得られる力を理解すること。これが倉橋の述べていた「生活を、生活で、生活へ」とつながるわけです。この考え方は今の子どもの教育のベースとなっています。
倉橋惣三の著作『育ての心』
倉橋は著書「育ての心」の中で次のように述べています。
子どもの心もちは、極めてかすかに、極めて短い。
濃い心もち、久しい心もちは、誰でも見落とさない。
かすかにして短き心もちを見落とさない人だけが、子どもと俱にいる人である。
教育はお互いである。
それも知識を持てるものが、知識を持たぬものを教えてゆく意味では、或いは一方が与えるだけである。
しかし、人が人に触れてゆく意味では、両方が、与えもし与えられもする。
倉橋は静岡県出身の心理学者です。児童文化に深い理解と関心を示し、1922(大正11)年に創刊された『コドモノクニ』では編集顧問をつとめました。また『キンダーブック』の1927(昭和2)年の創刊と編集にも関わるなど、教育者としても文学者としても活躍しました。
倉橋惣三のまとめ
保育士の試験には頻出される倉橋惣三。彼は「誘導保育論」の提唱者であり、「系統的保育案」のプログラムを作成した児童中心主義者です。教育者として、東京女子高等師範学校にて教授、同幼稚園にて主事を歴任したことからお堅い人物と思いがちですが、様々な編集にも関わるなどマルチな活動をしていたようです。
倉橋の名言としては、「幼児教育の第一義は幼児生活の価値を知ることである」「幼児教育に関するすべての問題は理論的にも実際的にも、つまりこの第一義から派生するものである」「幼児の生活それ自身が自己充実の大きな力を持っている」などがあります。
こうした考えがベースになって幼児の生活を「さながらにしておくこと」が大切であると主張しています。さながらにする、というのは簡単ではありませんが、子供の自発生活を尊重して「生活を生活で生活へ」導いていくことが大切なのかもしれませんね。
本日もありがとうございました。