地域生活支援プログラム
ACTと言われる包括的地域生活支援プログラムが注目されています。これは「包括的地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment)」略で、重い精神障害のある方たちが地域で生活できるように支援するためのものです。
このプログラムは、集中的・包括的なケアマネジメントのモデルの1つとして、世界各国で実践され、有用性の高い方法として使われています。
現在、日本の精神保健福祉分野においても「長期入院などに起因する社会技能の低下」などを軽減するために、欧米のACTプログラムが注目されています。一体どういうのものか紹介していきます。
ACTの特徴について
ACTでは、プログラムが提供できるサービスを利用者に当てはめるのではなく、個々の利用者に柔軟なサービスを提供することを重視して、利用者のニーズに合わせてサービスの形が決められています。つまり、オーダーメイドのサービスを重要視しているわけです。それを具体化するためにはプログラム自体に一定の決まり事が必要です。
ACTプログラムにはオーダーメイドのサービスの提供を実現させるための、8つの重要な特徴があります。
- 対象者を重い精神の障害をもつ方に限定。
- 対象者に対しては保健、医療、福祉等の様々な職種の専門家がチームとして当たる。
- 利用者数の上限を設定し、手厚いサービスを保証する。
- スタッフ全員で1人の利用者のケアを共有する。
- ほとんどのサービスをチームが責任を持って提供し、柔軟で迅速なサービスを提供する。
- 積極的な訪問を行い、詳細な情報に基づいたアセスメントを実現する。
- 期限を定めず断続的に関わり、利用者が必要とする限りサービスを続ける体制を保証する。
- 24時間365日体制で対応する。
以上8つがACTプログラムの特徴です。
ACTの歴史とは
ACTは1972年、アメリカのウィスコンシン州メンドータ州立病院からスタートしました。当時のアメリカでは脱施設化が進められ、巨大精神病院が閉鎖されつつありました。ところが地域の受け皿が十分でないままの脱施設化はホームレスの増加や「回転ドア現象」など、様々な問題を生じさせました。この問題に対して、より積極的に地域でのケア体制を作り出していく試みがACTの原型となりました。
ACTの有用性については長年の調査研究から、入院期間の減少、居住安定性の改善、サービスの向上などの効果が証明されています。また、アメリカではACTを導入することで政府から州への補助金が出るようになっています。
多くの先進国でもACTの有効性が認められ、カナダ、英国、オーストラリア、デンマーク、オランダなどで導入されています。英国のバーミンガムのシステムでは、ACTを機能分化させ、急性期に対応するHTT(在宅治療チーム)と、急性の状態にはないが服薬管理やリハビリテーションを必要とする人に対応するAOT(積極的訪問チーム)を置いています。
日本の問題とACT普及への課題
日本の精神医療保健福祉の分野には様々な課題があります。まず、多くの病院や診療所では採算を考えて、なるべく手のかからない患者を診る傾向にあり、1人の医者が外来で午前中に数十人以上の患者を診なければならない現実があります。また日本では医療、福祉、保健、労働はそれぞれ縦割りでの関わりが根強くあり、職種間の連携が不十分であるという問題があります。
ACTのプログラムでは1人のスタッフ、或いは1つのチームが関わる利用者数の上限を設定しており、その中で質の高い実践を維持する必要があります。そのためACTの普及には病院や医師の理解が不可欠であり、地域の連携も重要になってきます。
ACTでは、地域のチームに様々な職種の専門家がいて、その中でコミュニケーションを図りながら協働していくことを重要視しています。このため職種間においての縦割り意識をなくす改革も必要です。さらに資源をどうするのか、診療報酬の在り方をどうするかなど行政の強いリーダーシップが望まれています。
まとめ
ACTは、地域医療ではなく地域生活支援の方法であり、重い精神障害のある人たちが地域で生活できるように支援するための有用性の高い方法です。その方法は、利用者に合わせた柔軟なサービスを提供する「オーダーメイドのサービス」です。そして、それを具体化するためにプログラムには構造上の8つの重要な特徴があります。
発祥の地であるアメリカでは、脱施設化による様々な問題の解決に大きな効果を発揮し、先進国でも有効性が認められ導入されています。
日本においても有用性の高さからACTは注目されていますが、これまで重い精神障害者の地域生活支援がほとんどなされてこなかった事から課題も多くあります。今後実践を重ねながら議論を交わし、我が国独自のチーム形成やシステム開発を喫緊に行う必要があると思います。本日もありがとうございました。
参考文献
― 三品桂子、2008、ACTを日本に導入するための課題、花園大学社会福祉学部研究紀要
― 総務庁行政監察局(編集)、1989、 精神障害者の社会復帰をめざして、有斐閣
― 高木俊介、2008、ACT-Kの挑戦、批評社
― 西尾雅明、2005、新たな地域精神保健福祉、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
― 日本療養病床協会ソーシャルワーカー部会(編集)、2004、だから面白いソーシャルワーカーの仕事、厚生科学研究所