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パラリンピック不正出場の歴史〜発達障害の検査と診断のむずかしさ

 

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シドニー・パラリンピックでの不正出場

 

衝撃的な事件は2000 年、シドニーで開かれたパラリンピックで発生しました。

 

男子バスケットボール大会で、知的障害のない選手が金メダルを獲得したのです。

健常者を装ってパラリンピックに不正出場する前代未聞の事件。世界に衝撃が走りました。

 

そして、IPC(パラリンピック委員会)は、確かな障害認定システムができるまで、知的障害をパラリンピックの競技から除外することにしたのです。

 

 

 

発達障害の診断のむずかしさ

 

実は、知的障害と健常者を区別するのは大変難しい作業です。というのも知的障害をはじめとする発達障害の明確な原因は、いまだに分かっていないからです。

 

日本には、知的障害について確定した定義はありません。知的障害者には医療や教育、福祉、労働などの社会的支援が必要ですが、明確な定義がないため困っている方は多いのです。

 

知的障害者の親の会「全日本手をつなぐ育成会」は、「社会福祉基礎構造改革への意見」(1998 年)の中で、知的障害の定義が無いために都道府県によって認定に著しい格差があると指摘しています。

 

つまり、東京では知的障害と認められるけれど地方では認定されない、そうした地域の格差もあるのです。

 

知能検査のはじまり 

 

知能検査の始まりは、1905 年にフランスのビネーが弟子と開発した「ビネー式知能検査」までさかのぼります。

 

当初の目的は、パリの学校での義務教育の開始にあたって、知的発達に遅れのある子どもを判別するためでした。ここで行われたビネー式の知能検査は、初等教育の普及とともに全世界へと広がっていきました。


ビネー式検査は日本でも1947年、田中寛一さんが田中ビネー知能検査を発刊し広まりました。その後、改定を重ね現在では田中ビネー知能検査Ⅴが広く用いられています。


田中ビネー知能検査Ⅴの特徴は、年齢尺度が導入されていることです。1 歳級から 13 歳級までの問題と、成人の問題が難易度別に並べられています。

 

各問題は、言語、動作、記憶、数量、知覚、推理、構成など多岐にわたります。

知的発達の進み具合、あるいは遅れ具合をトータルに捉えることができます。福祉領域では、療育手帳の判定のために使用されることも多い知能検査です。

 

知能障害と環境

 

知的障害の程度は、その人が生活する環境によっても違いがでます。同じ人であっても場面や状況によって障害の程度は変化します。

 

従来は認知機能の障害を重視してきた診断も、適応障害の側面にも焦点が当てられるようになりました。客観的に適応行動を把握したうえで、適切な支援を検討していくことが必要です。

 

 

不正出場の発覚から12年後・・・

 

不正出場から12年後。

 

世界知的障害者スポーツ連盟とIPCが協議を重ねた結果、2012 年のロンドン大会から陸上、水泳、卓球の競技に知的障害者が出場できるようになりました。

 

2016 年のリオ大会にも引き継がれましたが、バスケットボールなどは復活していません。現在、パラリンピックでの知的障害の認定基準は次のとおりです。

 

  • IQが 75 以下
  • 専門家の診断
  • 生活上の困難を抱えている。


しかし、認定基準についても問題があります。まずIQに関しては、世界の国で適切な数値が得られかといえば疑問です。統計的処理の問題があり、難しいのが現状です。

 

また知的障害に詳しい専門家がいない国もあります。さらに生活上の困難さは、暮らしている環境の違いに影響を受けます。

 

不正出場事件から、20年過ぎても発達障害の問題は根本的に解決しているとはいえますん。とくに知的障害の定義は医学モデルから脱皮していないといえます。

 

オリンピックにばかり注目が集まりますが、パラリンピックもさまざまな問題や課題を抱えています。こうした事実を知り、解決に向けた本格的な話し合いを続けることが何より必要だと思います。

 

本日もありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

<参考>

 

  • 平成 30 年度障害者総合福祉推進事業「知的障害の認定基準に関する調査研究」報告書
  • American Association on Intellectual and Developmental Disabilities. (2010) Intellectual disabilities:definition、 classification、 and systems of support、 11th ed. own.(太田俊己、 金子健、 原仁、湯汲英史、 沼田千好子共訳 2012 知的障害:定義、分類および支援体系、第 11 版. 日本発達障害福祉連盟.)
  • American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5thed.). Arlington、 VA: American Psychiatric Publishing.Groth-Marnat、 G. (2009). Handbook of Psychological Assessment (Fifth ed.). Hoboken (NJ): Wiley.
  • 中村満貴男・荒川智(編).(2003).障害児教育の歴史.明石書店.
  • 清水貞夫・玉村公二彦(2016).「精神遅滞」定義における「適応行動」―適応行動尺度の開発とその帰結―.奈良教育大学紀要.65(1).p.151-162.
  • Sparrow、 S. S.、 Cicchetti、 D. V.、 Balla、 D. A. (2005). Vineland Adaptive Behavior Scales、second edition. Survey forms manual. NCS Pearson Inc.、 Minneapolis、 MN.
  • 田巻義孝・堀田千絵・宮地弘一郎・加藤美朗(2018).知的障害の理解についての新しい方向性(1):知的障害概念に影響を及ぼした福祉制度を中心に.信州大学教育学部研究論集.12.p.187-211.
  • 田中千穂子・栗原はるみ・市川奈緒子(編).(2005).発達障害の心理臨床―子どもと家族を支える療育支援と心理的援助―.有斐閣アルマ.
  • 辻井正次(監修)明翫光宜・松本かおり・染木史緒・伊藤大幸(編).(2014).発達障害児支援とアセスメントのガイドライン.金子書房.
  • 辻井正次・村上 隆(監修)黒田美保・伊藤大幸・萩原 拓・染木史緒 (著). (2014). VinelandII 適応行動尺度. 東京: 日本文化科学社.