歳を重ねても、仲の良い夫婦はいます。長い時間、苦楽を共にした男女が血のつながりよりも深い絆で結ばれる。それは理想の夫婦のカタチかもしれません。夫婦円満の二人が、老年期に直面する不幸が、配偶者(夫や妻)との死別です。愛が深い夫婦ほど、配偶者が亡くなると大きな失望感を抱きます。
仲良し夫婦が配偶者を亡くした時に気をつけたいのが、うつ病です。生きる意味がない、生きる価値が見当たらない、と自ら死を選ぶケースもあります。この記事では、高齢者の「うつ病」について考えていきたいと思います。
配偶者との死別
配偶者と死別した後に、すぐに気持ちを切り替えて生活できる人は多くはありません。食事を作る気にならない、憂鬱な気分で落ち込んでしまう、わけもなく涙が溢れくる・・・など口惜しさと寂しさが交互にやってきて、感情をおさえきれません。
こうした人生で最悪の事態を解決するのは、やはり時間です。時間はさまざまなことを洗い流してくれる特効薬だと思います。次に大事なのは家族など周囲のサポートです。気にかけてあげること……これが何よりの救いになります。
高齢者「うつ病」の症状とは?
高齢者のうつ病は、若い世代とは違います。一般的に指摘されている抑うつ感よりも、めまい・肩こり・便秘といった身体症状がでることが多いです。また被害妄想、もの忘れに似た症状が出ることもあります。
「なんだかやる気がおこらない」「悪いことばかり考える」「人生を悲観して死にたくなる」などの気持ちが湧き出てきても、もう歳だからとガマンする方もいます。老年期のうつ病は悲哀の訴えが少なく、気分低下やうつ思考が周囲も分からない(目立たない)のが特徴です。
また家族も、「お年寄りが、うつ病になるはずがない」という先入観もあります。毅然とした態度をとっていても配偶者を亡くしてショックでない方はいません。少なくとも半年間は頻繁に声かけをするなどして様子を見るようにしましょう。
死から起こる悲嘆反応とは
悲嘆反応とは、親しい人を亡くしたことで現れる、死に対するこころの反応のことを言います。具体的には、以下のような反応が見られます。
- 身体的反応・・・食欲不振、睡眠障害、嘔吐など。
- 情緒的反応・・・無気力、無感覚、抑うつ、敵意など。
- 行動的反応・・・探索、混乱、活動減退、集中力低下など。
喪失体験の後、人は感情・思考・行動など様々な場面で悲嘆反応がみられます。また夜間に亡くなった妻が使っていたタンスの前に座る、妻が好きだった食器を出すなどの行動がみられることもあります。これは故人の探索行動に当てはまります。これらの反応は時間とともに落ち着いてくる傾向にありますが、心のケアはとても大切です。
高齢者の自殺者は、意外とおおい
高齢者の自殺率は高いです。自殺率の約4割が高齢者で、そのうち「うつ病」が大きな原因となっています。しかも自殺を試みた高齢者が死に至るケース(完遂率)は、若者に比べて高いのです。
死を決断したら、迷わずに決行する意思は、高齢者の方が強いのかもしれません。それだけに周囲の人は、高齢者の動向に注意することが必要です。ましてや配偶者を亡くした後は、平気そうに見えても相当なショックを感じているはずです。
例えば、子どもが巣立って夫婦ふたりで暮らしている場合、配偶者が亡くなると一人で暮らすことになります。日中は平気でも夜になると寂しさが募ります。家族が持ち回りで時間を決めて、電話をするだけでもうつ病の予防になると思います。
高齢者の統合失調症がヤバい?
ひとり暮らしの高齢者の中には、統合失調症を患う人もいます。その症状で中心的なのは「妄想型」と「幻覚」です。たとえば、物盗られ妄想のように現実や具体的な妄想が多いのが特徴です。「ものを盗られた」「家に石を投げ込まれている」など具体的な妄想が多く、攻撃的になることも多いです。
悲しみの乗り越え方
仲良しの夫婦が配偶者を亡くした時、悲嘆のプロセスはおおむね次のような進行をたどります。以下は、あくまで「おおむね」です。個人差もありますし、途中の段階が入れ替わったりもします。また進行具合が行ったり来たりすることも珍しくありません。
- 死別した事実を否定する時期
- あの時こうしていれば死ななかった、など自分や第三者へ怒りを向ける時期
- 死別の事実を認めたくないために「あの時に戻れたら」「この苦しみをなくしてくれるなら何でもするのに」など、現実逃避する時期
- 死別の事実を少しずつ認めはじめ「自分もあの世へ行きたい」など抑うつ気分が出てくる時期
- 死別の事実を受け入れはじめ「あの人の分まで私が生きよう」など前向きな気持ちを持てるようになる時期
周囲の注意が必要な時期は、4の抑うつ気分が出てくる頃です。この頃は、便秘や下痢があったりと、心身に多少なりとも影響がでています。体調に気を配ることをおすすめします。
これまで長く連れ添っていた配偶者との死別は、本人でさえも想像していなかった様々な心身の異常や反応をもたらします。配偶者の死や悲しみを克服する方法は十分に悲しみ、悲しみを整理して行くことです。中途半端に頑張ろうとするのではなく思い切り悲しむこと、涙が枯れるまで泣くことも効果的です。
緩和ケア
緩和ケアとは、利用者本人やその家族の痛みや苦しみを和らげることです。利用者存命中の家族のストレスを受け止めることも緩和ケアの一つですし、亡くなった後の心理ケアも緩和ケアの一つです。
周囲の人も頑張ろうと言ったり、慰めたりするのではなく、その悲しみを受けとめて、一緒に悲しむ。そうすることが配偶者を亡くされた方を前向きな気持ちに導く近道のようにも思います。本日もありがとうございました。