ツナガレ介護福祉ケア

東京都指定の障害福祉サービス事業所です。高齢者・障がい児・者、子育ての現場から発信しています!

世界初!慶應義塾大学医学部で脊髄損傷の人工シナプス開発に成功「再生医療」の可能性~ツナガレケア

f:id:mamoruyo:20220129135334p:plain

世界初!人工シナプスコネクターの開発に成功

2020年8月、慶應義塾大学医学部などの研究グループが脊髄損傷の治療に効果のある「人工シナプスコネクター」の開発に成功しました。世界初です。研究は、人工的に作り出した「たんぱく質」を注射することで、切れてしまった神経の機能を回復させるというもの。すでにマウスを使った実験に成功しているそうです。慶大グループでは、安全性や効果の確認をさらに進め、脊髄損傷やアルツハイマー病などの治療薬開発につなげたいそうです。そもそも頚髄損傷とはどんな病気なのでしょうか。

 

スノーボーダーや俳優の闘い

ドラマ撮影中に自転車から落ち脊髄損傷を負った俳優・滝川英治さん。懸命にリハビリに励み、パラスポーツ番組のMCで仕事復帰を果たしました。また、プロスノーボーダーの岡本圭司さんも脊髄損傷の大怪我をしました。しかし手術を経てリハビリを続行しながら雪上に復帰しました。

脊髄損傷とは

脊髄損傷とは「外傷などによる脊髄の損傷で知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する病態」です。日本には10万人以上の患者がいるとされますが、有効な治療法は確立されていません。しかし近年は基礎研究が進歩しています。中枢神経系も適切な環境が整えば再生することが明らかになりました。さらに世界ではさまざまな治療法が臨床試験に入りつつあります。

中枢神経系の特徴

日常の中で新しいことを記憶したり、学習したり、身体を動かすことを私たちは何気なくおこなっています。しかし、これはとても複雑な仕組みで成り立っています。この時に重要な役割を果たしているのが、脳や脊髄などの中枢神経系です。

中枢神経系では、膨大な神経細胞が集まり、結びつき、複雑でありながらも法則性のあるルールに基づいてネットワークを構成しています。そのネットワークにおいて、神経細胞間を接続する特殊なつなぎ目を「シナプス」と呼びます。

シナプスの可能性

シナプスでは、シナプス前部から後部に向かって情報伝達されます。情報を出力する神経細胞はシナプス前部から神経伝達物質を放出。後部の神経細胞がそれを受けることで情報が伝わります。このような情報伝達の場を構築するのが、シナプスオーガナイザーと称される分子です。

分子のコネクター

シナプスオーガナイザーは、分子のコネクターとして機能したり、情報伝達に関する分子をシナプスに集める役割をします。シナプスは発達期に多くつくられます。情報伝達があまり行われないシナプスは除去され、逆に入力が多い神経回路では、数や機能の増強が行われます。生涯にわたって形成、維持、再構築が行われるシナプスは、私たちが物事を記憶したり、忘れたり、繰り返しの練習で上手に運動ができるようになる重要なキーでもあるのです。

発達障害、アルツハイマーへの効果

近年、自閉症などの発達障害やアルツハイマー病などにおいて、シナプスの数や機能の異常、シナプスオーガナイザーの遺伝子変異が多数報告されています。障害福祉サービスを提供する立場としては、発達障害のシナプスと精神疾患との関連性は大変、興味のあるところです。いくつかの精神・神経疾患はシナプスの減少に起因することが強く示唆されています。分子メカニズムの解明やその過程を制御する方法の開発は、今後、有用な治療薬を生み出すためにも不可欠です。

研究チームの素顔

今回、慶応大と協働したのが愛知医大らのチームです。研究チームには、慶應義塾大学医学部生理学教室の柚﨑通介教授、鈴木邦道助教、愛知医科大学の笹倉寛之博士、武内恒成教授とイギリス、ドイツの研究者らも参加しています。

愛知医科大学

愛知医科大学には脊髄損傷センターがあります。高度医療に力を入れている印象があります。愛知医科大学の主な対象疾患を載せておきます。

腰部脊柱管狭窄症,腰椎すべり症,腰部椎間板ヘルニア,腰椎分離症,変性側彎症,黄色靱帯骨化症,後縦靱帯骨化症,頚椎症性神経根症,頚椎症性脊髄症,頚椎椎間板ヘルニア,脊椎脊髄腫瘍,脊髄血管奇形,頭蓋頚椎移行部病変など,あらゆる脊椎脊髄疾患を対象としています。

人工タンパク質「CPTX」

研究グループは先行研究の成果をもとに、シナプスの結合を促進させる効果が期待できる新しい人工タンパク質「CPTX」を開発しました。シナプスの減少や異常を伴う小脳失調、アルツハイマー病、脊髄損傷のモデルマウスに投与し、効果を検証したそうです。研究では、数日以内にシナプスが再形成され、協調運動の改善、学習・記憶機能の回復、まひした後ろ足の運動機能の回復など、著しい改善が確認できたといいます。

再生医療の可能性

今回の研究は、従来の薬物治療とは視点の異なる「神経回路の再接続」というアプローチの可能性を示すものです。神経細胞と神経細胞のつなぎ目であるシナプスは、人体組織の働きによって発達期から生涯にわたって形成、維持、再構築のサイクルが維持されます。

今回のポイントとなるのは「CPTX」という人工的なたんぱく質です。このたんぱく質を後ろ足がまひして歩けなくなったマウスに注射したところ、2か月ほどで、正常なマウスの8割程度まで改善して、歩けるようになったといいます。開発が進めば、脊髄損傷で歩けなくなった方が再び歩ける期待は高まります。またアルツハイマー病を再現したマウスの脳に注射したら、記憶力が改善したというのも大きな成果です。

まとめ

自閉スペクトラム症、統合失調症、アルツハイマー病など多くの精神・神経疾患の発症は、シナプスの数や機能に異常があることが一因と考えられています。このたんぱく質によってシナプス異常が改善され、けがや病気などで損傷した神経伝達の回路が回復される日も近いかもしれません。今後も注目していきたいと思います。

本日もありがとうございました。

 

 

 <参考文献>

・慶應義塾大学 “A synthetic synaptic organizer protein restores glutamatergic neuronal circuits”(人工シナプスオーガナイザーたんぱく質がグルタミン酸作動性神経回路を回復させる)