介護業界の倒産要因とは
経営は安定しているとされる介護業界ですが、2018年の「老人福祉・介護事業」の倒産は、106件と厳しい一面もあります。理由は、①報酬改定や人材不足、②利用者確保の難しさ、③同業他社との競争激化などが挙げられます。
事業者の立場から考察すると、行政関連の申請書類の多さから加算を諦めて、悪循環に陥るケースもあるように思えます。加算をとるためには人員基準をはじめ、クリアすべき事項も多く細かな手続きが必要です。
またせっかく加算申請が通っても、実地指導などで不備があれば返戻(支払われたお金を戻す)しなければなりません。事業者がこうした知識やリスクを知らないと事業を軌道にのせるまでに時間はかかります。今回は介護ビジネス第一弾として、大手企業のビジネス戦略を分析しながら勝ち残るヒントを探りたいと思います。
ベネッセの介護ビジネス
進研ゼミで知られるベネッセ。教育のイメージが強いのですが、介護事業にも乗り出しています。運営しているのは「ベネッセスタイルケア」です。一説には、会長の家族が介護が必要になり、自宅での介護士の働きをみて「これはスゴイ!将来は介護だ」と思いつきビジネスをスタートさせたともいわれています。
福利厚生と独自性
全国に介護施設を展開するベネッセ。スタッフは2018年現在で1万7054人。正社員の比率が高いのが特徴です。福利厚生にも力を入れています。医療費補助、保育手当、インフルエンザ予防接種、JTB宿泊費などあります。ベネッセらしい手当には「子供ちゃれんじゼミが30%オフ」というのもありました。
ドミナント戦略とは
ベネッセの戦略のひとつが「地域ドミナント戦略」です。地域ドミナント戦略とは、既に施設があってライバルがいない地域に積極的に介護施設(在宅・居住の両方)をつくることです。いわゆるコンビニで行われている戦略です。同じ地域に同じブランドの施設があると利用者の安心感が高まり、クチコミで周辺の人々の利用も増えるという戦略です。
空き地を活用する日本郵政
日本郵政も介護事業に進出しています。日本郵政の強みは、なんといっても不動産です。所有する空き地に介護付有料老人ホームと保育園の複合施設を作り、ベネッセがその運営を手伝うというものです。日本にある遊休地の活用という名目で高齢者ビジネスを本格的に展開しそうです。
高齢者みまもり訪問
郵便局では、地域密着型のサービスとして「みまもり訪問サービス」を行っています。これは郵便局員が定期的に(毎月1回/30分程度)高齢者宅を訪問するサービス。要支援になる前の状態で、一人暮らしの家族がいる場合は便利かもしれません。
長生き保険
太陽生命は老人ホームの入居者に向けた「長生きリスク」に備える団体年金を発売しました。これは入居の長期化に伴う金銭的負担を減らす年金です。施設にもよりますが、有料老人ホームに入ると毎月20万円から40万円くらいの費用がかかります。利用が長くなるとお金の不安から退去する高齢者もいます。こうしたリスクに備えるための保険は、今後増えてくるかもしれません。
学研のビジネス戦略
学研も高齢者住宅・グループホームなど様々なサービスを提供しています。医療・福祉関係者の学びを支援しているのも特徴です。
2018年には介護大手の「メディカル・ケア・サービス」を買収しました。目的は教育と福祉を軸に、赤ちゃんからお年寄りまでカバーする地域包括ケアの実現です。学研が認知症グループホームに強い会社を買収したことでベネッセとの戦いも本格化しそうです。
まとめ
介護福祉業界は、命を預かる仕事です。企業の利益を優先させるのではなく、安全、安心、高品質のサービスを提供することが大切です。そのために事業進出する際も管理者やサービス提供責任者の実務経験、スタッフが取得している資格など厳しくチェックされます。
教育や医療の現場では当たり前の資格取得は、介護福祉業界でもますます重要視されると思います。行政では今、介護士のキャリアパスの道筋を示し、それに伴う賃金加算も積極的に行っています。経営サイドもこうした制度に対応しながら、介護保険外の新しいサービスを提供することが求められているのかもしれません。
本日もありがとうございました。