重度訪問介護(以下、重訪)は、障がい状態の重い方を自宅で支援するサービスです。
たとえば、ある筋ジストロフィーの方は、食事の際に茶碗4分の1ぐらいの量を、2時間ほどかけて食べます。障がいのため口も大きく開けないし、飲み込みもスムーズに行えません。胃ろうも併用しているので、医療的なケアも必要です。
こうした、長時間の支援、専門的な支援が行えるサービスが重訪です。しかし、日常生活では不測の事態も起こります。この記事では「重度訪問介護」という仕事について紹介します。
重度訪問介護のサービス
重訪のメリットは長い時間、介護士やヘルパーの支援を受けられることです。一般的に障がいが重くなると、家族による介護が難しくなり、施設に入るケースが多いです。しかし、重訪を利用すれば、自宅で365日24時間の支援を受けることは可能です。
自己負担は、低所得なら無料、所得が一定以上ある場合は、月3万7200円です。重訪は24時間連続の介護を、8時間勤務のケアさんが3交代制でサービス提供する前提で、厚生労働省が制度設計しました。しかし、まだまだ多くの課題が残されています。
重訪の障害支援区分は?
重度訪問介護は、その名の通り、重い障害のある方を対象にしたサービスです。そのため障害支援区分は、4以上の方が対象となります。障害支援区分とは、障がいの状態を数字で表したもので、1→2→3→4→5→6と重くなっていきます。さらに障害支援区分が4以上だけでなく、次のAもしくはBに該当しなければなりません。
A: 下記の1もしくは2のいずれにも該当する人
- 二肢以上に麻痺等がある者で、障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれもが「支援が不要」以外に認定されている者
- 認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である者
B: 認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である人
重訪を提供する資格は?
ケアさんが重訪を行うには、自宅で介護するための資格が必要です。施設系では、無資格で働けるところもありますが、重訪では認められていません。これは、自宅というプライベートな空間に出入りすることも関係しています。
必要な資格は以下となります。看護師さんは医療だけでなく、介護・福祉の現場でもヘルパー1級として働くことができます。
- 重度訪問介護従業者養成研修の修了者
- 介護福祉士
- 介護職員基礎研修修了者
- 居宅介護従業者養成研修1級、2級、3級課程修了者
- 訪問介護員養成研修1級、2級、3級課程修了者
- 看護師(ホームヘルパー1級に相当)
重度訪問介護の障害とは
重度訪問介護の利用者はさまざまです。医療的ケアの必要な方も多いです。それだけに介護士も専門的な知識や経験が必要になります。たとえば、次のような障がいのある方は長い時間の介護を受けられる可能性は高いです。身体介護などの短い支援サービスしか提供されていない方は、受給者証をチェックしてみるとよいかもしれません。
・筋ジストロフィー
・脊髄損傷
・ALS
・遷延性意識障害
・重症心身障害者
・強度行動障害
重訪でのお仕事
重度の障害のある方への支援は多岐にわたります。食事介助やトイレ、着替えの介助、調理や洗濯、買い物なども支援します。
障がい特性によってサービスの内容も変わります。利用者によっては喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアも必要です。医療的ケアを行うためには介護資格だけでなく、講習や実地研修を受けて合格する必要があります。
医療的ケアとは
重訪では、喀痰吸引などの医療的ケアが必要な方は多いです。喀痰吸引とは、自力で出せない人の痰を専用のチューブなどで吸引する医療的ケアのひとつです。これまで、たんの吸引や経管栄養は「医行為」と整理されており、法制化されるまでは一定の条件の下に実質的違法性阻却論により容認されていました。
喀痰吸引等のむずかしさ
重訪では需要の高い医療的ケアですが、介護職が喀痰吸引等を実施するための手続きは煩雑です。まず、働いている事業所(会社)が、喀痰吸引等の登録を受けていることが必要です。さらに介護職が実地研修を受けて合格すること。その後、社会福祉振興・試験センターなどへ登録申請が必要です。また事業所は合格者の申請を行政の担当部署に届ける必要があります。制度の全体像をみると、その複雑な提供体制がわかると思います。
厚生労働省【介護職員等によるたんの吸引等の実施制度】
https://www.mhlw.go.jp/content/000464962.pdf
重度訪問介護の課題
重訪の利用者数は増えています。しかし、せっかく支給決定を受けてもサービスを提供する事業所が足りていないという問題が以前から指摘されています。
その要因の1つに、重度訪問介護の基本単価が低いことが挙げられています*1。障害程度が重度な方を対象とするサービスでありながら、身体介護の半額程度であることから参入しない事業所も少なくありません。現場からは特定事業所加算の見直しなどを求める声が高まっています。
【参考文献】
*1 公益社団法人全国脊髄損傷者連合会
「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定に関する意見等」