日本の幼児教育の父と呼ばれ、保育士の試験にも頻出されるのが、倉橋惣三(くらはし・そうぞう)です。
まずは、こちらの有名な詩を紹介します。
驚く心
おや、こんなところに芽がふいている。
畠には、小さい豆の嫩葉(どんよう・わかばのこと)が、えらい勢いで土の塊を持ち上げている。
薮(やぶ)には、固い地面をひび割らせて、ぐんぐんと筍(たけのこ)が突き出して来る。
伸びてゆく蔓(つる)の、なんという迅(はや)さだ。
竹になる勢いの、なんという、すさまじさだ。
おや、この子に、こんな力が。……
えっ、あの子に、そんな力が。……
驚く人であることに於て、教育者は詩人と同じだ。
驚く心が失せた時、詩も教育も、形だけが美しい殻(から)になる。
倉橋は子供が持つ潜在的な能力を、独特の言い回しで表現しています。
教育者は詩人である、という表現も個性的です。
倉橋惣三とは
倉橋は、日本初の幼稚園「東京女子高等師範学校附属幼稚園」で園長を務めました。
静岡県出身で心理学者でもある彼は、児童文化に深い理解を示し、教育者としても文学者としても活躍しました。
海外の事情にも詳しく、恩物(神の贈り物)をかごに入れて自由に遊べる道具にしました。
恩物 (おんぶつ) とは……
幼稚園の創始者フレーベルが1830年代に考案製作した一連の教育的遊具。 独自な宗教的世界観と子どもの自己活動的な遊びを重視する教育思想とに深く結びついている。
保育理論
倉橋が力を注いだのは、幼児の自発性を尊重した保育理論です。
日本初の体系的なカリキュラム「系統的保育案の実際」を提唱しました。
これは、幼児のありのままの生活から出発して、自己充実→充実指導→誘導→教導と段階的に進む保育の方法です。
ポイント:
保育士の国家資格には、倉橋の代表的な著作『幼稚園雑草』『育ての心』『幼稚園真諦』『子供讃歌』が出題されることが多いです。
生活を、生活で、生活へ
倉橋の誘導保育案は、現在の幼稚園や保育園で取り入れられています。
ポイントは「生活を、生活で、生活へ」という言葉です。
具体的には、①幼児教育の第一義は幼児生活の価値を知ること、②幼児の生活それ自身が自己充実の大きな力を持っている、③幼児の生活をさながらにしておくことが大切である、というものです。
子供の生活の価値を知り、そこで得られる力を理解すること。これが倉橋の述べていた「生活を、生活で、生活へ」とつながるわけです。
倉橋惣三の著作『育ての心』
倉橋は著書「育ての心」で次のように述べています。
子どもの心もちは、極めてかすかに、極めて短い。
濃い心もち、久しい心もちは、誰でも見落とさない。
かすかにして短き心もちを見落とさない人だけが、子どもと俱にいる人である。
教育はお互いである。それも知識を持てるものが、知識を持たぬものを教えてゆく意味では、或いは一方が与えるだけである。
しかし、人が人に触れてゆく意味では、両方が、与えもし与えられもする。
まとめ
保育士の試験に数多く登場する、倉橋惣三氏。
それだけ、日本の幼児保育に影響を与えた人物といえます。
彼は誘導保育論の提唱者であり、系統的保育案を作成した児童中心主義者です。
倉橋は、幼児の生活を「さながらにしておくこと」が大切であると主張しています。
さながらにする、というのは簡単ではありませんが、子供の自発生活を尊重して「生活を生活で生活へ」導いていくことが大切なのかもしれませんね。
本日もありがとうございました。