
保健師とは
コロナ禍で、「保健師」という言葉を耳にする機会が増えました。
でも、名前は知っていても、実際にどんな仕事をしているのかは、意外と知られていない気がします。
保健師さんって、何をしている人なんだろう。
熱が出たときに相談する人なのか。
子育ての悩みを話す人なのか。
介護のことも聞いていいのか。
心のしんどさも相談できるのか。
こうして並べてみると、少し不思議な仕事です。
病院の医師や看護師のように、役割が一目でわかるわけではありません。
けれど、実は保健師という仕事は、私たちの暮らしのかなり近くにあります。
しかも、困りごとが大きくなってからではなく、その少し前の段階で支えてくれることが多い。
そこが、この仕事の大事なところだと思います。
保健師とは
保健師は、地域や職場で暮らす人たちの健康を支える専門職です。
対象になるのは、子どもだけでも、高齢者だけでもありません。
赤ちゃんもいれば、妊婦さんもいる。
働いている人もいれば、介護をしている家族もいる。
障害のある方や、そのご家族もいます。
つまり、「特定の誰か」だけを見ている仕事ではないのです。
人が生まれて、育って、働いて、年を重ねていく。
その流れの中で起こる、いろいろな不安や心配ごとに関わる仕事だといえます。
しかも保健師は、ただ話を聞いて終わる人ではありません。
看護の知識を土台にしながら、健康だけでなく、生活や家族の状況まで含めて見ていく。
そこに、この仕事の特徴があります。
病気だけを見るのではなく、その人の暮らしを見る。
そんな言い方をすると、少し伝わりやすいかもしれません。
保健師になるには
保健師になるには、保健師国家試験に合格する必要があります。
そして日本では、看護師国家試験にも合格していることが前提になります。
だから保健師は、なんとなく相談に乗ってくれる人、というわけではありません。
身体のこと、心のこと、健康づくり、予防、支援のつなぎ方。
そうしたことを学んだうえで、地域や職場の中で人を支えている専門職です。
やさしく話を聞いてくれることも大事ですが、
それだけではなく、「この人はいま何に困っているのか」「どこにつなげるとよいか」を考えられる人でもあるのです。
保健師の仕事とは
保健師の仕事は、働く場所によって少しずつ違います。
でも、どこで働いていても共通しているのは、
病気になったあとだけを見るのではなく、
その前の段階から人を支えるということです。
生活習慣病を防ぐこともそうですし、
子育ての不安を受け止めることもそうです。
介護疲れや、心の不調に気づくこともそうです。
大きな問題になる前に、少しでも支える。
言葉にすると地味ですが、とても大事な仕事です。
行政保健師
いちばん身近なのは、行政で働く保健師かもしれません。
市区町村の役所、保健センター、保健所などで働いています。
仕事の内容は本当に幅広くて、
乳幼児健診、育児相談、妊娠や出産の相談、
高齢者の健康づくり、精神保健の相談、感染症対応など、さまざまです。
コロナ禍で注目されたのも、この行政保健師でした。
電話対応や調整で大変そうな姿が報道されていたので、
「ああいう仕事をする人なんだ」と思った方も多いと思います。
もちろん、それも大切な仕事です。
でも本来は、それだけではありません。
地域で暮らす人が、なるべく安心して生活できるように、広い意味で支える。
それが行政保健師の役割です。
産業保健師
企業で働く保健師もいます。
それが産業保健師です。
働く人の健康診断後のフォローをしたり、
メンタルヘルスの相談に乗ったり、
休職や復職の支援に関わったりします。
働くことは大切ですが、
無理をしすぎると、身体や心が先に悲鳴をあげることがあります。
本人も、周りも、まだ大丈夫だと思っていたのに、
ある日急に立てなくなる。
そういうことは、決して珍しくありません。
産業保健師は、そうなる少し前の段階で支える人です。
企業の中にいる健康の専門家、と考えるとわかりやすいかもしれません。
学校や子どもに関わる場面
学校の健康支援というと、保健室の先生を思い浮かべる方が多いと思います。
実際に、学校で日常的に保健室を担っているのは、養護教諭であることが一般的です。
ですから、保健師と保健室の先生をそのまま同じにしてしまうと、少し違います。
ただ、保健師は子どもと無関係なわけではありません。
むしろ、子どもや家庭を支える場面では、とても大きな役割があります。
発達のことが気になる
子育てがつらい
家庭の中で孤立している
思春期のこころの不調が気になる
そうしたとき、保健師が地域の側から支援に関わることがあります。
子どもを見るだけでなく、その子を支えている親や家庭まで見る。
そこが、保健師らしいところだと思います。
病院などで働く保健師
病院などで働く保健師もいます。
その場合は、看護の仕事に加えて、予防や健康指導、退院後の生活支援、地域との連携などに関わることがあります。
病気は、病院の中だけで終わるものではありません。
退院したあと、家でどう暮らすのか。
家族は支えられるのか。
再発を防ぐには何が必要なのか。
そういう視点が、とても大事になります。
保健師は、治療のその先にある暮らしまで見ようとする人です。
その意味では、医療と生活をつなぐ役目も持っているのだと思います。
子育て支援で、保健師が身近になるとき
保健師がもっとも身近に感じられるのは、子育ての場面かもしれません。
赤ちゃんが生まれると、うれしいことも多いですが、
それと同じくらい、不安や疲れも出てきます。
ちゃんと育っているのかな
泣き止まないけど大丈夫かな
自分のやり方は間違っていないかな
眠れなくてつらい
誰にも相談できない
こういう気持ちは、特別なものではありません。
多くの親が、一度は通る道だと思います。
でも、その渦中にいると、自分だけができていないように感じてしまう。
そこが、子育てのしんどさでもあります。
保健師は、そういうときに話を聞き、必要なら家庭訪問をし、
地域の支援につないでくれることがあります。
子どもを守るというのは、子どもだけを見ることではない。
親がひとりで抱え込まないようにすることでもあります。
保健師は、そのためにいるのだと思います。
障害や介護の場面でも、保健師は力になる
障害や介護の場面では、困りごとはひとつでは終わりません。
体調のこと
家族の負担
制度のこと
これから先の不安
通院や受診のこと
生活の組み立て方
ひとつの悩みのように見えて、実際にはいくつもの問題が重なっていることが多いです。
そういうとき、必要なのは、
ただ制度を説明してくれる人だけでもなく、
ただやさしく話を聞いてくれる人だけでもありません。
いま何がいちばん大変なのか。
どこから手をつけると少し楽になるのか。
誰につなぐとよいのか。
それを一緒に整理できる人が必要です。
保健師は、そういう役割を担える専門職です。
もちろん、保健師が何でも解決してくれるわけではありません。
でも、困りごとを整理して、必要な支援へつなぐ力を持っている。
それだけでも、かなり心強い存在です。
なぜ、保健師の仕事は見えにくいのか
ここまで書いてきて思うのは、
保健師はとても大事な仕事なのに、意外と知られていないということです。
なぜなのか。
ひとつは、仕事が目立ちにくいからだと思います。
医師のように手術をするわけではない。
看護師のように病棟で直接ケアする姿が見えやすいわけでもない。
問題を未然に防ぐ
相談に乗る
必要なところにつなぐ
こういう仕事は、うまくいっているほど外から見えません。
もうひとつは、日本の制度の中では、
自分から動かないと支援につながりにくいところがあるからです。
役所に相談するのは勇気がいります。
「こんなことで相談していいのかな」とためらう人も多いでしょう。
でも、そのためらいのあいだに、しんどさが深くなってしまうこともあります。
本当は、もっと早く頼ってよいのだと思います。
保健師は、もっと使っていい
保健師というと、少し堅い感じがあるかもしれません。
でも、本当に困っているなら、遠慮せず相談してよい相手です。
大きな問題じゃなくていい。
ちょっとした不安でもいい。
どう説明したらよいかわからなくてもいい。
むしろ、「まだ何とかなるうち」に相談するほうがいい。
それが、保健師という仕事にいちばん合っている気がします。
体調が気になる
育児がつらい
介護がしんどい
家族のことで悩んでいる
心が少し疲れている
そういうときに、
病院に行くほどかどうかわからない。
誰に話せばいいのかもわからない。
そんな場面は、思っているより多いものです。
保健師は、そういう曖昧な不安を受け止めてくれる相手でもあります。
白黒はっきりつかない段階で、話を聞いてくれる人がいる。
それだけで、救われることはあります。
まとめ
私たちは、病気になったら病院へ行く、ということは知っています。
けれど、病気になる前の不安や、暮らしの中のしんどさを、誰に相談すればよいかは、あまり教わらない気がします。
保健師は、そうした「少し手前」の場所にいる専門職です。
まだ壊れていないけれど苦しい。
まだ限界ではないけれど、このままでは心配。
そういうときに、そっと支えてくれる人です。
派手な仕事ではありません。
けれど、暮らしを守るうえでは、とても大切な仕事です。
何かが起きてからではなく、
何か起きそうだなと思ったときに、思い出してほしい。
保健師とは、そんな存在なのだと思います。