
人格検査というと、その人の性格を言い当てるもののように思われがちです。
けれど、心理学では、人格をそんなに単純なものとしては扱いません。
人には、その人なりの考え方の癖があります。
感じやすいこと、反応しやすいこと、無意識のうちに繰り返してしまう行動の傾向もあります。
ただ、それはひとつの質問や、ひとつの場面だけで決まるものではありません。
だから心理学では、いくつかの角度からその人を見ようとします。
質問への答え方を見る方法もあれば、あいまいな刺激への反応を見る方法もあります。
また、作業の進め方そのものから特徴をとらえようとする方法もあります。
人格検査は、そのための道具のひとつです。
人を決めつけるためではなく、その人を少し丁寧に理解するために使われます。
今回は、人格検査の代表的な方法である、質問紙法、投影法、作業検査法の3つを、心理学の基本に触れながらやさしく整理していきます。
人格検査とは何か
人格検査とは、心理学において、その人の性格傾向や行動の特徴、感情の動き方、対人関係のパターンなどを理解するために用いられる方法です。
ここでいう「人格」は、単なる明るい暗いといった印象ではありません。
ものの受け止め方、感情の表れ方、対人場面での反応、ストレスへの向き合い方など、比較的安定した心の傾向を含んでいます。
もちろん、人はいつも同じではありません。
体調や環境、置かれている状況によっても変わります。
それでも、ある程度くり返し現れる特徴をとらえようとするのが、人格検査の役割です。
ただし、人格検査だけでその人のすべてがわかるわけではありません。
心理学では、面接や観察、生活歴などとあわせて総合的に理解することが大切だと考えられています。
質問紙法
質問紙法は、あらかじめ用意された質問項目に答えてもらい、その回答から性格傾向や心理的特徴をみていく方法です。
もっともイメージしやすい人格検査は、この質問紙法かもしれません。
「はい」「いいえ」「どちらともいえない」といった形で答えるものが多く、結果を数量的に整理しやすいのが特徴です。
複数の人を比較しやすく、一定の基準で見やすいという意味では、かなり扱いやすい方法です。
一方で、本人がどう答えようとするかにも影響を受けます。
よく見られたい、自分でも自分のことがよくわからない、いま少し落ち込んでいる。そうしたことが結果に反映されることもあります。
つまり、質問紙法は便利ですが、答えだけを機械的に読むのではなく、その答え方も含めて考える必要があります。
MMPI(ミネソタ多面式人格目録)
MMPIは、人格特性や心理的問題の傾向を多面的に把握するための、代表的な質問紙法です。
性格をひとつの軸だけで見るのではなく、いくつかの尺度を通して、その人の心理状態や考え方の特徴を立体的にみていきます。
心理学の世界ではよく知られた検査で、臨床場面でも重要な位置を占めています。
ただし、結果だけで即断するのではなく、面接などほかの情報とあわせて読むことが前提になります。
東大式エゴグラム
東大式エゴグラムは、交流分析の考え方をもとにした質問紙です。
人の心のはたらきを、いくつかの自我状態に分けて考え、自分がどのような対人反応をしやすいか、どのような関わり方の傾向があるかをみていきます。
診断名をつけるためというより、自分のコミュニケーションの癖や対人関係の特徴を振り返るために用いられることが多い印象があります。
矢田部ギルフォード性格検査(Y-Gテスト)
Y-Gテストは、複数の性格特性をプロフィールとしてとらえる質問紙法です。
与えられた質問に答えることで、性格傾向を全体として見やすく整理できます。
日本では比較的よく知られている性格検査のひとつです。
質問紙法全般にいえることですが、数字や類型だけで人を決めるのではなく、その人の生活背景や現在の状態もふまえて読むことが大切です。
投影法
投影法は、あいまいで意味の定まっていない刺激を提示し、それにどう反応するかを通して、その人の内面を理解しようとする方法です。
質問紙法のように、決まった質問に答えてもらうのではありません。
むしろ、自由な反応の中に、その人らしさが表れると考えます。
心理学では、人はあいまいなものを前にしたとき、自分の内面にある欲求や不安、葛藤、ものの見方を、知らず知らずのうちにそこへ映し出すことがあると考えてきました。
これが「投影法」の背景にある発想です。
もちろん、投影法は解釈が難しく、実施にも経験が必要です。
それでも、質問紙では拾いにくい、その人の深い部分がにじむことがあります。
ロールシャッハ・テスト
ロールシャッハ・テストは、左右対称のインクのしみを見て、何に見えるかを答えていく検査です。
同じ図版を見ても、人によって受け取り方はかなり違います。
そこに、その人の知覚のしかたや考え方、感情の動き、現実の受け止め方などが表れると考えられています。
投影法の中では、もっとも有名な人格検査のひとつです。
TAT(主題統覚検査/絵画統覚検査)
TATは、人物や場面が描かれた絵を見て、そこから物語を作ってもらう検査です。
その物語の中には、語る人自身の欲求や葛藤、対人関係への見方、将来へのイメージが表れやすいとされています。
どんな登場人物に注目するか、どんな結末を与えるか、そこにその人らしさが出ます。
心理学では、人の行動を欲求と環境との関係から理解しようとする考え方がありますが、TATもそうした視点と深く結びついています。
バウムテスト
バウムテストは、「木を一本描いてください」と求め、その描き方から心理状態や人格傾向をみていく検査です。
言葉で説明するのが難しい人でも、絵にはその人らしさが出ることがあります。
木の大きさ、位置、線の強さ、全体の印象などを手がかりにして、その人の内面を考えていきます。
ただし、絵だけですべてを判断するわけではありません。
あくまで理解の材料のひとつとして扱うことが大切です。
P-Fスタディ(絵画欲求不満検査)
P-Fスタディは、欲求不満を感じやすい日常場面の絵を見て、その場面の人物がどう答えるかを吹き出しに書いてもらう検査です。
たとえば、理不尽なことを言われたとき、邪魔をされたとき、期待が裏切られたとき。
そうした場面で、その人がどのように反応しやすいかをみていきます。
心理学的には、攻撃の向け方や、不満への処理のしかたを見る検査として理解されることが多いです。
ストレス場面での対人反応の特徴を考えるうえで興味深い方法です。
SCT(文章完成テスト)
SCTは、書きかけの文章を完成させてもらう検査です。
たとえば、
「私の将来は――」
「父は――」
「人に対して私は――」
といった文の続きを自由に書いてもらいます。
短い形式ですが、その続き方には、その人の感情や価値観、人間関係のあり方が表れることがあります。
投影法の中では、比較的取り組みやすい方法といえるかもしれません。
作業検査法
作業検査法は、質問への答えや自由な語りではなく、実際の作業の進め方から特徴をみていく方法です。
何を答えたかではなく、どのくらいのペースで進めるか、どこで疲れやすいか、波がどう出るか。
そうしたことが手がかりになります。
心理学では、行動そのものも重要なデータです。
作業の量や安定性、集中の持続のしかたには、その人の特徴が表れることがあります。
内田クレペリン精神作業検査
内田クレペリン精神作業検査は、一桁の足し算を連続して行い、その作業量や変化のしかたをみる検査です。
とても単純な作業ですが、続けていく中で、その人の作業ペース、集中の持続、疲れ方、リズムの出方などが見えてきます。
質問紙法や投影法とは違って、答えの内容ではなく、作業の進み方そのものを見るところに特徴があります。
採用や配置の場面で使われることも多く、比較的知られた作業検査法です。
心理学では人格をどう見るのか
ここまで見てきたように、人格検査にはいくつかの方法があります。
これは裏を返せば、心理学が「人はひとつの角度だけではわからない」と考えてきた、ということでもあります。
質問への答え方には、その人の自己認識が出ます。
あいまいな刺激への反応には、深いところにある感情や葛藤がにじむことがあります。
作業の進め方には、行動のリズムや粘り方が表れます。
つまり、人格とは、ひとつの言葉や数字で言い切れるものではなく、いくつもの側面を持ったものだということです。
だからこそ、人格検査は「ラベルを貼るためのもの」ではなく、「理解の糸口を増やすためのもの」として使うほうが、本来の心理学に近いのだと思います。
まとめ
人格検査には、大きく分けて、質問紙法、投影法、作業検査法があります。
質問に答えることで見える部分があり、あいまいなものに反応することで見えてくる部分があり、作業を続ける中で表れる特徴もあります。
どれかひとつで、人を決めることはできません。
むしろ、人はそれだけ複雑で、簡単には言い切れないものだと教えてくれるのが、人格検査なのかもしれません。
心理学において大切なのは、検査結果をそのまま性格の正体のように扱うことではなく、その人を理解するための手がかりとして丁寧に使うことです。
人格検査は、人を型にはめるためのものではありません。
その人を、少し丁寧に見るための方法です。
そう考えると、人格検査は少し冷たいものではなく、人を理解しようとするための、静かな道具として見えてきます。