
医師が「ゲーム」を処方する時代
医師が、薬ではなく「ゲーム」を処方する。
少し前なら、冗談のように聞こえたかも。でも、いよいよそういう時代が来た。
塩野義製薬がADHDの子ども向けに、ゲーム形式の治療用アプリ「エンデバーライド」を発売したというニュースがありました。
薬を飲む。カウンセリングを受ける。環境を整える。そうした従来の治療や支援に加えて医師が処方する「治療用アプリ」という選択肢が出てきたわけです。
しかも今回は、子ども向けのゲームのアプリ。これは単なる商品というより、医療や福祉、教育の関わり方が少しずつ変わってきているサインのようにも感じます。
- 医師が「ゲーム」を処方する時代
- ADHDとは何か
- ただのゲームではなく「治療として設計されたゲーム」
- 薬が難しい子もいる
- 「ゲームで治る」とは少し違う
- 福祉や教育の現場にも関係してくる
- 治療への入口が増えることの意味
- 子どもと家族を支える方法は、ひとつではない
- 治療は、我慢だけで続けるものではない
ADHDとは何か
ADHDは、「注意欠如・多動症」と呼ばれる発達障害のひとつです。
主な特性は、集中が続きにくい「不注意」、じっとしていることが苦手な「多動性」、思ったことや行動を止めにくい「衝動性」です。
たとえば、忘れ物が多い。話を最後まで聞くのが苦手。順番を待つのが難しい。思ったことをすぐ口に出してしまう、などの特性があります。
こうした行動だけを見ると「落ち着きがない」「やる気がない」「しつけの問題」と受け止められてしまうことがあります。でも実際には、本人の努力不足だけで片づけられる話ではありません。
文科省の令和4年調査では、小中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、学習面や行動面で著しい困難を示すとされた子どもは推定で8.8%程度。これはADHDと診断された割合ではありませんが、支援が必要な子どもが一定数いることは分かります。
大事なのは「困った子」と見るのではなく、「困っている子」と見ること。行動の奥にどんな困りごとがあるのか。そこを見ることが支援の入口になります。
ただのゲームではなく「治療として設計されたゲーム」
今回の治療用アプリは、ただのゲームではありません。
画面の中でキャラクターが乗り物に乗り、コースを進んでいく。子どもはタブレットやスマホを傾けながら操作。遊びながら複数の注意を同時に使う設計になっています。
ADHDの子どもは、脳の司令塔のような前頭前野の働きが関係しているとされています。このアプリは、その部分に働きかけることを目的として作られているようです。
ゲームの形をしているけれど、子どもが取り組みやすい形に治療が近づいてきたと言えるのかもしれません。
薬が難しい子もいる
ADHDの治療には、薬物療法や心理的な支援、環境調整などがあります。
薬で生活が楽になる子もいます。一方、副作用が出て続けられない子もいます。子ども本人が「薬を飲みたくない」と強く感じることもあります。
親も頭では必要だと分かっていても、子どもに薬を飲ませることに迷いが出ることはあります。そういうときの選択肢が増えることは、大きな意味があります。
「ゲームで治る」とは少し違う
ただし、「ゲームでADHDが治る」と簡単に受け止めるのは違うと思います。
ゲームで遊べば何でも解決するという話ではありません。医師が必要と判断し、決められた方法で治療の一部として活用するものです。
つまり、これは「遊び」ではなく「治療として設計されたゲーム」。期待することは大切だけど、過剰に期待しすぎると子どもや家族に別の負担がかかってしまうこともあります。
福祉や教育の現場にも関係してくる
福祉の現場でも、こうした治療用アプリの存在は無視できなくなるかもしれません。
放課後等デイサービス、相談支援、学校、家庭、医療機関。それぞれが子どもの困りごとをどう見て、どう支えていくのかが重要になります。
これまでは薬を飲んでいるか、通院しているか、療育を受けているか、といった情報が中心でした。しかし今後は「治療用アプリを使っている」という情報も、支援の中で出てくる可能性があります。
治療への入口が増えることの意味
今回のニュースを見て「医療が変わってきた」というより、「治療への入口が増えてきた」と感じました。
薬を飲むことに抵抗がある子でも、ゲームなら取り組みやすいかもしれない。治療という言葉に身構えてしまう家庭でも、少し前向きになれるかもしれない。本人が「やってみたい」と思えることが、治療の第一歩になることもあります。
もちろん、万能な方法などありません。でも選択肢が増えることは悪いことではない。むしろ、これまで「薬か、我慢か」のように感じていた家庭にとっては、少し息がしやすくなる話かもしれません。
子どもと家族を支える方法は、ひとつではない
福祉の現場にいると子どもや家族の困りごとは、ひとつの制度やひとつの方法だけでは解決しないと感じます。だからこそ、選択肢が増えることには意味があります。
薬もある。カウンセリングもある。環境調整もある。福祉サービスもある。そして、治療用アプリという新しい方法も出てきた。
大事なのは、その子に合う組み合わせを探すことだと思います。
治療は、我慢だけで続けるものではない
「ゲームで治療」という言葉だけを見ると少し不思議に聞こえます。でも子どもにとっては、苦しい治療よりも取り組みやすい入口のほうが続けやすいこともある。
治療は、我慢だけで続けるものではない。本人が少しでも前を向ける形で続けられることも、大切な支援なのだと思います。
医師がゲームを処方する時代。それは、医療が軽くなったということではありません。
むしろ、子どもたちに届く形へ、治療が少しずつ変わってきているのだと思います。
本日もありがとうございました。
(文責:おおや)