
介護の現場では、排泄の変化はとても大切なサインです。なかでも便秘は、日常的によくあることのように見えます。
「いつものことだから」
「数日出ていないけど、本人も慣れているから」
そう考えてしまう場面もあるかもしれません。
しかし、便秘は単に「便が出ない」というだけの問題ではありません。腹痛、吐き気、食欲低下、腹部の張り、出血、ぐったりした様子などを伴う場合には、体調変化の重要なサインになることがあります。
介護職に求められるのは、便秘を診断することではありません。大切なのは、日常の小さな変化に気づき、記録に残し、必要な相手につなぐことです。
便秘は「日数」だけで見ない
便秘というと、一般的には「3日以上排便がない状態」と説明されることがあります。ただ、介護現場では日数だけで判断するのは危険です。
もともと毎日排便がある人が2日出ていなければ、それは大きな変化かもしれません。反対に、普段から2〜3日に1回の人であれば、本人の苦痛や便の状態をあわせて見る必要があります。
つまり大切なのは、本人にとっての「いつも」と比べることです。
□ 普段の排便リズムと違うか
□ 腹痛・吐き気・食欲低下はないか
□ 本人が苦しさを訴えていないか
「便秘あり」とだけ記録しても、あとから見た人には状態がわかりません。「いつから出ていないのか」「本人は何を訴えているのか」「誰に報告したのか」まで残すことで、記録として意味を持ちます。
BSSとは
BSSとは、ブリストル便形状スケールのことです。
便の形や硬さを、1から7までの数字で表すための尺度です。介護現場では、「硬い便」「ゆるい便」といった表現だけでは、スタッフによって受け取り方が変わってしまうことがあります。
そのため、BSSを使って便の状態を数字で残しておくと、申し送りや記録がわかりやすくなります。
- BSS1は、コロコロした硬い便です。便秘傾向が強い状態として見ます。
- BSS2は、硬くて出にくい便です。
- BSS3は、やや硬めの便です。表面にひび割れがあるような便。
- BSS4は、バナナ状のなめらかな便です。比較的よい便の状態とされています。
- BSS5は、やや柔らかい便です。形はありますが、少し崩れやすい状態です。
- BSS6は、泥状の便です。下痢傾向として見ます。
- BSS7は、水のような便です。
大まかに言えば、BSS1〜2は便秘傾向、BSS3〜5は比較的整った状態、BSS6〜7は下痢傾向として見ます。
ただし、BSSの数字だけで判断するのではありません。本人の普段の排便リズム、腹痛、吐き気、食欲、水分摂取量などもあわせて確認することが大切です。
介護職の役割は「見る・残す・つなぐ」
便秘ケアで介護職が中心に行うことは、観察、記録、生活支援、報告です。
水分摂取を促す。食事の様子を見る。活動量を確認する。トイレに行きやすい環境を整える。排便時の姿勢や転倒リスクに配慮する。
こうした支援は、介護職が日常の中でできる大切なケアです。
一方で、下剤を増やす、服薬のタイミングを変える、浣腸をする、座薬を使う、摘便をする、といった判断は、介護職が単独で行うものではありません。
介護職の仕事は、医療的な判断を一人で抱え込むことではなく、必要な情報を整理して、管理者、看護師、家族、主治医などへつなぐことです。
すぐ報告した方がよいサイン
便秘そのものよりも、便秘に伴う異常の方が危険です。
強い腹痛がある。お腹の張りが強い。吐き気や嘔吐がある。食欲が急に落ちた。便や吐物に血が混じる。ぐったりしている。
特に「いつもの便秘だから大丈夫」という決めつけは危険です。
いつもと違う。本人の様子が変だ。何となく気になる。
この感覚を軽く扱わないことが、事故予防につながります。
生活支援としてできる便秘ケア
便秘ケアというと、薬や処置を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、介護現場でまず大切なのは、生活全体を整えることです。
水分を取れているか。食事量は落ちていないか。活動量が減っていないか。トイレまで安全に移動できるか。寒さや羞恥心で排泄を我慢していないか。
こうした支援は、自然な排便リズムを整えるうえで大切です。
腹部マッサージや温罨法なども、本人の状態や事業所ルールを確認したうえで行う必要があります。よかれと思って無理に行うのではなく、安全を優先します。
浣腸や摘便は特に慎重に
浣腸、摘便、座薬などは直腸損傷、出血、血圧低下などのリスクがあります。
「家族がいつもやっているから」
「前にもやったから」
「本人が希望しているから」
こうした理由だけで、介護職が独断で行うのは危険です。
まず観察する。記録する。管理者や看護師へ相談する。必要に応じて家族や主治医へ確認する。そして指示内容を記録に残す。
この流れを守ることで安全だけでなく、スタッフを守ることにもつながります。
排泄は尊厳に関わる支援
排泄はとても個人的な行為です。人に知られたくない、見られたくない、迷惑をかけたくないと思う人も多くいます。
だからこそ、便秘ケアでは、身体面だけでなく、本人の気持ちにも配慮する必要があります。焦らせない。恥ずかしさに配慮する。トイレ環境を整える。転倒しないように見守る。本人が言いにくいことを、言いやすい空気にする。
こうしたことも、介護職の大切な支援です。
まとめ
便秘は介護現場ではよくあるテーマです。
だからこそ、軽く見てしまいやすいテーマでもあります。
大切なのは診断することではありません。普段との違いを見る。便の状態を具体的に残す。本人の訴えを記録する。異常があれば早めにつなぐ。
この基本を共有しておくことが支援の質を上げ、事故予防にもつながります。
便秘ケアの合言葉は、「見る、残す、つなぐ」。
それが介護現場に求められる便秘ケアだと思います。
参考資料
・便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症。
・厚生労働省「原則として医行為ではない行為」に関するガイドライン。