
介護報酬の改定もあり、訪問介護事業者の倒産が相次いでいます。
もともと中小規模の事業者が多い業界です。
日々の運営や経営に頭を悩ませている事業所も少なくないと思います。
介護の仕事は、人を支える仕事です。
ただ、それを支える側の現場は、気持ちだけでは回りません。
制度が変わる。
人が足りない。
書類は増える。
連携も請求も、簡単ではない。
そういう現実の中で、それでも続いていく事業所と、少しずつ苦しくなっていく事業所があります。
その違いは、能力や根性だけでは説明できません。
今回は、組織論やモチベーション理論を手がかりにしながら、
介護事業所が続くために何が必要なのかを、あらためて考えてみたいと思います。
- 組織は、誰か一人の頑張りだけでは続かない
- 人は、条件だけで働いているわけではない
- 効率は大事ただし、効率だけでは続かない
- 小さな違和感を見過ごさないことが大事
- 人は、見返りが見えないと動きにくい
- 満足を高めることと、不満を減らすことは別である
- 管理だけでもだめ、任せきりでもだめ
- 外から動かすだけではなく中から動ける状態をつくる
- 人によって、力が出る条件は違う
- 誰かを責めることではなく、続けられる形を探すこと
組織は、誰か一人の頑張りだけでは続かない
アメリカの経営学者バーナードは、組織が成り立つためには、次の3つが必要だと考えました。
- コミュニケーション
- 協働意欲
- 共通目的
この3つは、介護事業所にもそのまま当てはまります。
たとえば、連絡や相談がしやすいこと。
お互いに支え合おうという気持ちがあること。
そして、事業所としてどこを目指すのかが共有されていること。
逆に、どれか一つでも弱くなると、組織は少しずつ回りにくくなります。
介護の現場では、日々の業務が忙しい分、こうした土台の部分が後回しになりやすいのですが、実はここがとても大切です。
人は、条件だけで働いているわけではない
メイヨーの人間関係論では、仕事の生産性は、賃金や設備だけではなく、職場での人間関係や、自分が気にかけられているという感覚にも大きく影響されると考えました。
これは介護の現場でも実感しやすい話だと思います。
同じような仕事量でも、
- 相談しやすい
- 声をかけやすい
- 困った時に一人にならない
そう感じられる職場は、続きやすい傾向があります。
反対に、業務そのものよりも、相談しにくさや伝わりにくさが積み重なって疲れてしまうこともあります。
介護の仕事は、業務の正しさだけでなく、連携のしやすさや関係性の持ち方も大きな意味を持つ仕事だと思います。
効率は大事ただし、効率だけでは続かない
テイラーの科学的管理法は、仕事を分析し、標準化し、効率を高める考え方です。
介護事業でも、
- 記録の書き方をそろえる
- 業務の流れを明確にする
- 誰がどこを確認するかを決める
これらはとても重要です。
なぜなら、こうした仕組みがないと、現場は属人的になりやすく、ミスや負担の偏りも起きやすくなります。
でも、介護の仕事は単純な流れ作業ではありません。
利用者さんごとの状況があり、家族対応もあり、スタッフ同士の連携も必要です。
だからこそ、仕組みを整えることは大切。
でも、人をただ効率の部品のように扱わないことも大切。
この両方の視点が必要なのだと思います。
小さな違和感を見過ごさないことが大事
ハインリッヒの法則があります。
1件の重大な事故の背景には、29件の軽微な事故があり、そのさらに背景には300件の異常やヒヤリハットがあるというものです。
この数字をそのまま当てはめる必要はありませんが、考え方としては参考になります。
つまり、大きな問題は突然起きるのではなく、その前に小さな違和感や小さなズレが積み重なっていることが多い、ということです。
介護事業所でも、
- 記録のちょっとしたズレ
- 引き継ぎの漏れ
- 確認不足
- ルールが曖昧なまま続いている運用
こうしたものを放置すると、後で大きな負担や問題につながることがあります。
現場を守るためには、問題が大きくなってから動くより、小さい段階で見直していく方が、結果的にみんなを守りやすいと思います。
人は、見返りが見えないと動きにくい
ヴルームの期待理論では、人が意欲を持って動くためには、
- 頑張れば成果につながると思えること
- 成果が評価や報酬につながると思えること
- その評価や報酬に意味を感じられること
が大切だとされます。
介護の現場は、どうしても「当たり前にやってくれていること」が多くなりがちです。
でも実際には、日々の支援や記録、連携、調整の積み重ねによって現場は支えられています。
頑張っても何も変わらない。
責任だけが重い。
そう感じる状態が続けば、意欲は落ちやすくなります。
だからこそ、報酬だけでなく、評価の伝え方や役割の見え方も大事になります。
満足を高めることと、不満を減らすことは別である
ハーズバーグの二要因理論は仕事への満足と、不満につながる要因は別だと考えます。
たとえば、勤務条件やルールが不十分であれば不満は高まります。
一方で、それを整えたからといって、やりがいや前向きさが高まるとは限りません。
人が前向きに働きやすくなるためには、
- 認められている感覚
- 任されている感覚
- 自分の仕事に意味があると感じられること
も必要です。
介護事業所の運営では、不満が生まれにくい環境を整えることと、前向きに働ける要素を増やすことを、分けて考えた方が現実的なのだと思います。
管理だけでもだめ、任せきりでもだめ
マグレガーのX理論は、人は放っておくと働かないので管理や統制が必要だ、という考え方です。
介護事業所でも、ルールや確認が必要な場面は確かにあります。
記録、請求、勤怠、事故報告などは、曖昧にはできません。
ただ、何でも管理だけで回そうとすると、現場は息苦しくなります。
一方で、理想論だけで任せきると、今度は責任の所在が曖昧になります。
大事なのは、管理するべきところはきちんと管理すること。
そのうえで、任せるべきところは信頼して任せること。
この線引きだと思います。
外から動かすだけではなく中から動ける状態をつくる
デシの内発的動機づけの考え方では、人は外から与えられる報酬だけではなく、自分なりの意味や納得感によっても動くとされます。
介護の仕事には、本来この内発的動機づけが生まれやすい面があります。
- 利用者さんとの関わり
- 支援がうまくいった実感
- 誰かの役に立てた感覚
こうしたものは、数字には見えにくくても、働き続ける力になります。
だからこそ、外からの管理や評価も必要ですが、それに偏りすぎないことが大切です。
働く人が、自分の仕事に意味を感じられる余地を残すこと。
これは、介護の仕事では特に大事なことだと思います。
人によって、力が出る条件は違う
マクレランドは、人には主に3つの欲求があると考えました。
- 達成欲求
- 権力欲求
- 親和欲求
結果を出したい人もいれば、人をまとめることに力を感じる人もいます。
安心できる人間関係の中で力を出しやすい人もいます。
介護事業所のマネジメントが難しいのは、全員に同じやり方が通用するわけではないことです。
ある人には裁量が力になる。
ある人には承認が力になる。
ある人には安心感が必要になる。
人を一括りにしないこと。
これは、働きやすさを考えるうえでも、組織を続けていくうえでも大切な視点だと思います。
誰かを責めることではなく、続けられる形を探すこと
介護の現場は、きれいごとだけでは回りません。
一方で、効率だけでも続きません。
必要なのは、
- 話が通ること
- 役割が見えること
- 小さな違和感を放置しないこと
- 人によって支え方を変えること
- 現場と経営の両方に無理をためすぎないこと
そうした、続けられる形を少しずつ整えていくことだと思います。
介護事業所の問題は、誰か一人の努力不足で起きるものではありません。
制度、人手不足、情報共有、役割分担、関係性。
いくつもの要素が少しずつズレた時に、現場は回りにくくなります。
だからこそ、誰かを責めるためではなく、より働きやすく、より続けやすい職場を考えるために、こうした理論を見直す意味があるのではないかと思います。
介護事業所の運営に、これが絶対の正解だと言い切れるものは少ないのかもしれません。
私自身もまだまだですが、だからこそ、現場にとっても経営にとっても無理の少ない形を、一緒に探していければと思います。