強度行動障害とはなにか?
強度行動障害とはどのような状態をいうのでしょう。恥ずかしながら筆者は、障害者支援を行うまでは知りませんでした。具体的には、以下のような状態が特徴とされています。
- 自分の体を叩く
- 食べられないものを口に入れる
- 危険につながる飛び出し
- 本人の健康を損ねる行動
- 他人を叩いたり物を壊す
- 大泣きが何時間も続く
この他にも個人差はありますが、ざっくりと強度行動障害の定義をいえば「周囲の人の生活に影響を及ぼす行動が高い頻度で起こるため、特別な支援が必要な状態」と言ったところでしょうか。
例えば強度行動障害では、自傷行為やモノを壊したりする行動も見られます。そのため周囲の人が驚いたり、家族の努力だけで育てていくのは大変です。したがって特別な支援が必要になります。
強度行動障がい者は、「困った人」ではありません。むしろ「困っている人」なのです。そのため彼らの特性や周囲の環境をしっかりと把握して、その人に合った支援や治療を続けることが重要です。
しかし自傷行為や破壊行動などが起きた時には何らかの場面転換をして、スイッチを変える必要があります。この方法は個々人さまざまではあるのですが、今回は場面転換のひとつである「数息観(法)」という方法をご紹介します。
感覚や知覚の違い
強度行動障害は、精神的な診断(知的障害、自閉症、統合失調症)ではありません。
直接的な他害(噛みつき、頭突き等)や間接的な他害(睡眠の乱れ、同一性の保持等)自傷行為などが普通では考えられない頻度と形式で出現します。
とはいえ精神的な診断はないものの、強度行動障害になりやすいのは重度・最重度の知的障害があったり、自閉症の特徴が強いコミュニケーションが苦手な人が多いです。
自閉症の人たちはコミュニケーション、想像力の障害がありますが、中には感覚過敏のある人もいます。光や音、匂い、感触、痛みなどの感覚を大脳で処理することができず、特殊な反応を示すことが少なくありません。
①聴覚刺激の反応
ある特定の音などに対して耳ふさぐ。
②視覚刺激の反応
キラキラ光るものなどに魅せられてそのまま動かなかったりする。
③触覚刺激の反応
肌触りに対するこだわり。特定の衣類しか着ようとしない。
④味覚刺激の反応
極端な偏食。
⑤嗅覚刺激の反応
香水や整髪料の匂いに過敏。逆に食べ物の味が分からない人も。
⑥痛覚刺激の反応
注射などに異様な恐怖心を覚える。逆に痛みに無頓着な人も。
⑦前庭感覚の刺激反応
強い揺れや動きに対して過度な恐怖や不安を感じる。逆に刺激好きな人も。
⑧固有感覚刺激の反応
物をうまく運べなかったり、着脱に時間がかかる。
日本における強度行動障害のある人の数は?
日本には約8000人、強度行動障害のある人がいるとされています。
生まれた時からではなく、中学、高校の時期に激しくなっているケースは多いです。
特に思春期以降に強いこだわりや自傷行動、他傷や破壊行動など見られる場合が多いです。
具体的な問題行動とは?
①自傷
自分で顔を引っ掻く、膝や肘を壁に打ち付ける、変形してしまうほど頭部を叩く。
②強い他傷
噛みつく、殴る、叩く、髪を引っ張る、頭突き。相手が怪我をしかねない行動。
③こだわり
気になるものがあると、周りが止めてもその行動をやめられない。
④激しい物壊し
ガラス、家具、ドア、茶碗、椅子など破壊。自分にも周りにも大きな危害を及ぼす。服を破ってしまうなど。
⑤睡眠の大きな乱れ
昼夜が逆転。寝床についていられない。そのために生じる他傷や破壊的行動。
⑥食事関係の強い障害
特定のものしか食べず体に異常をきたす。食べられないものを口に入れる。椅子に座っていられず周りと一緒に食事できない。
⑦著しい多動
目を離すとじっとしていられず走り回る。ベランダなど高く危険なところに上る。
⑧著しい騒がしさ
大声を出したり、一度泣き始めると数時間も続いたりする。
強度行動障害の方を支える5つの原則
強度行動障害は興味の限定やこだわり、それに対する過度な執着性や過敏性によって人や場に対する嫌悪感や不信感を高めてしまうことが大きな原因です。
特性と環境によっては、知的障害・発達障害の度合いが軽くても、強度行動障害が見られることがあります。
強度行動障害のある人を支えるためには5つの法則があります。
- 居住内の物理的構造化
- ひとりで過ごせる活動
- 確固としたスケジュール
- 移動手段の確保
- 安心して通える日中活動
強度行動障害の支援「数息観(法)」
欧米では、瞑想(Meditation)としての呼吸法が広まっています。
日本でも東邦大学医学部で呼吸法がセロトニン神経を活性化して心の病気を治癒させるという研究がされています。
強度行動障害では問題行動が起きた時に、何らかの場面転換(スイッチ)をして落ち着かせるという手法が行われます。しかしこの場面転換は個人差があり、魔法のような方法があるわけではありません。
筆者が強度行動障害のある方に試しているのは数息法という呼吸法です。
これは認知行動療法でも取り入れられている方法でリラクセーション効果があるとされ、単純に数を数えながら「腹式呼吸」をする方法です。
数息法のやり方
- 肩の力を抜き、楽な姿勢で椅子に座り、目を閉じる。
- 腹式呼吸をする(深呼吸ほど長くはないが、ゆったりとした呼吸)。
- 吐いて吸ってで「1」、吐いて吸ってで「2」と、心のなかで数える。
- 10まで数えたら、1に戻って、また10まで数える。
- 数がわからなくなったときは、また1から数える。
- 1回5-10分、1日に1-2回行う。
強度行動障害の方に行う場合は、顔を見せながらゆっくりと同じ動作をして頂いてます。問題行動が生じた時に呼吸法をするのではなく、日頃から一緒に行うことでコミュニケーションをとっています。
しかし、うつ病やパニック障害の場合は、リラクセーション法によって心身の状態が不安定になることもあるので心配なケースは担当医に相談しましょう。
本日もありがとうございました。
参考
(1)熊野宏昭「体の不調が続くとき・心身症」(『NHKきょうの健康』2003年5月号、日本放送出版協会、84頁。)