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障害者の身体拘束とは~人権侵害と認知症の深い闇…どんな状況でなぜ引き起こされるのか

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当たり前ですが、認知症の高齢者や障がい者への身体拘束はダメです。しかし現実はどうでしょう。

 

暴れたり、走り回ったり、危険な行為に及ぶ利用者さんもいます。知り合いの介護スタッフは、屈強な認知症のおじいさんに殴られて歯を折ったこともあります。
 

人権侵害と身体拘束について考えてみました。

 

 

障害者虐待防止法とは

 

2012年10月1日から障害者の尊厳を守るために「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)が施行されました。

 

世界と比べると、日本の障害者への取り組みは遅いです。

 

日本が国連の「障害者の権利に関する条約」に署名したのは2007年。まさに準備期間という名のもとに障害者の権利は置き去りになっていたわけです。

 

 

障害者の権利と、わがままな現実

 

現在、障害者を取り巻く法的環境の整備は進んでいますが、現場では法律では解決しないリアルなトラブルが発生します。

 

今年の夏、障害者の利用者さんが散歩中に興奮して問題行動を起こしました。

 

この時、目撃していた近所の人から利用者さんの家にクレームの電話が入りました。内容はおおよそ次のようなものです。

 

「オタクの●●●(利用者さんの名前)は、犬みたいに紐でつなぐか外に出すな!」

 

障害のある利用者さんが興奮して攻撃的な面を見せていたとはいえ、あまりに身勝手でワガママな主張・・・でも、これが現実なのです。

 

 

 

 

 

身体拘束の定義とは

 

障害者や認知症の方を紐などで拘束することを「身体拘束」といいます。

 

徘徊や他人への迷惑行為など、いわゆる問題行動などを防止するために車椅子やベッドに拘束して行動の自由そのものが奪われます。

 

しかしちょっと前まで、身体拘束は珍しいことではありませんでした。

 

車椅子やいすからのずり落ちや転倒、ベッドからの転落、車椅子とベッドとの間を移乗する際の事故を防止するために身体拘束は行われてきました。

 

大きな変化が起きたのは2000年。

 

4月に始まった介護保険制度に伴い、介護保険施設などでは身体拘束が禁止されて身体拘束ゼロに向けた取り組みが積極的に行われるようになりました。

 

 

身体拘束とはどのようなものか

 

 

身体拘束は人権擁護の観点だけではなく、高齢者のQOLを損なう危険性も指摘されています。

 

厚生労働省でも身体拘束ゼロ作戦推進会議を開催して「身体拘束ゼロへの手引き」を取りまとめています。

 

身体拘束の具体例としては、ひもや抑制帯、ミトンなどの道具を使用してベッドや車椅子に身体を縛ったりすることをいいます。

 

ミトンは子どもの指しゃぶりなどをやめさせるために使ったりしますが、あれもケースによっては身体拘束になるかもしれません。

 

身体の動きを道具で制限するだけでなく、部屋に閉じ込めて出られないようにする、あるいは向精神薬などを飲ませて動けなくすることも身体拘束です。

 

ほかにも、ベッド柵を使って降りられないようにする、おむつを外させないように介護衣(つなぎ服)を着せることも身体抑制に該当します。

 

 

身体拘束禁止の対象、具体的な行為とは

 

介護保険指定基準において「身体拘束禁止の対象となる具体的行為」には、次のような行動があります。

 

  1. 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
  6. 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
  8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  11. 自分の意思であけることのできない居室等に隔離する。

 

介護スタッフはこのような禁止対象を理解し、身体拘束ゼロに向けた取り組みをしなければなりません。

 

けれど、まだまだグレーゾーンもあることが身体拘束の難しさです。

 

 

 

 

介護者、ヘルパーが「身体拘束」を行える条件とは?

 

介護保険指定基準によると「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するための緊急やむを得ない場合」には身体拘束が認められています。

 

ただし、身体拘束を行う場合は「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つの要件を満たし、かつ、それらの要件の確認等の手続きが極めて慎重に実施されているケースに限られています。

 

具体的な3つの要件を調べてみました。

 


◆切迫性

 

・利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。

 


◆非代替性

 

・身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと

 


◆一時性

 

・身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

 

そして重要なのは、この3つの要件をすべて満たす状態であることを「身体拘束廃止委員会」などのチームで検討、確認し記録しておくことです。

 

こうした対応は正しいと思います。しかし実際に利用者さんが問題行動を起こした時には周囲がパニックになることも多く、適切な対応をするためには介護スタッフの熟達した経験や技術が必要です。

 

初心者の介護者が問題行動に直面した時に、この3つの要件は考えている時間はないでしょう。

 

それだけに日ごろから介護スタッフ間、事業所全体、家族や関係者の間での情報共有や学びの機会が必要だと思います。

 

 

自害行為のある高齢者や知的障害者などへの身体拘束のメリット

 

身体拘束のメリットは利用者さんの自害行為、他者への問題行動を抑えられることがあります。さらに次の3つの要因も事故予防として考えられます。

 


①身体的事故を防ぐ

 

例)麻痺や拘縮、体動、身体の変形のために座位が不安定で、椅子から転落したり、ずり落ちたりする事故を防ぐ。


②精神的事故を防ぐ


例)認知症や寝ぼけのためにベッドから転落する場合がある。認知症のため徘徊をして、危険を予期できずに転倒する事故を防ぐ。


③複合的要因による事故を防ぐ

 

例)予期しないときに突然車椅子から立ち上がろうとしたり、道路に飛び出すなど予測不可能な事故を防ぐ。

 

身体拘束のデメリットとは

 

利用者の自害行為や問題行動、事故防止が身体拘束のメリットといえる反面、デメリットももちろんあります。

 

具体的には「身体的」「精神的」「社会的」なダメージを利用者さんに与えることです。

 

①身体的なダメージ


身体拘束によって関節拘縮や筋力低下といった身体機能の低下、固定されることにより局所が圧迫されて褥瘡ができるなどの弊害をもたらします。

 

さらに動けないことによって食欲が低下し、心肺機能低下や感染症と闘うための抵抗力が低下します。

 

また車椅子に縛っていると「無理な立ち上がりによる転倒のリスク」が考えられます。

 

②精神的なダメージ


精神的なダメージとしては、苦しさや我慢を強いるだけでなく、人間としての尊厳を侵すことにもつながります。

 

精神的苦痛が続くと認知力の低下も進行します。また、せん妄などを頻発させるリスクも増大します。

 

本人だけでなく家族に対しても精神的な苦痛を与えることとなります。

 

③社会的なダメージ

 

社会的ダメージとして考えられるのは、身体的拘束によって介護スタッフも自分のケアに誇りが持てなくなります。

 

仕事に誇りが持てなくなると「士気の低下」につながります。

 

また大きな事件や事故が発生すれば、事業所に対する社会的な不信、偏見を生じさせることとなります。

 

 

 

 人権侵害と認知症

 

身体拘束は人権侵害の観点からも許されることではありません。

 

しかし介護の現場では身体拘束に近いことをしなければ、介護スタッフ自身が危険にさらされることもあります。

 

特に認知症の増加とともに暴れたり、危険行為をする利用者も増えています。

 

高齢者や障害者から暴力を振るわれても介護職は我慢するしかないのか、という悲痛な叫びも聞こえてきます。

 

事件は現場で起きています。

 

介護の現場から、そうしたリアルな声をしっかりと世間に届けて発信することが大切だと思います。

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

東京都保健福祉局 身体拘束ゼロの手引き

 

厚生労働省 身体拘束ゼロに役立つ福祉用具・居住環境の工夫

 

介護保険施設等運営指導マニュアル