うつ病とうつ傾向の違い
最近、増えているのが認知症の親を介護している家族が「うつ」になるケースです。元気だった頃を知っているからこそ、認知症になった親の姿に戸惑い、気持ちが沈んでしまう。そして将来を悲観してだんだんと元気がなくなってしまう。こうした状況は誰にでも訪れることかもしれません。
しかし「うつ病」と「うつ傾向」には、大きな違いがあります。気分が沈む、不安で仕方ない、やる気が起きないなどの症状はどちらかといえば「うつ傾向」に近いように思います。
では「うつ病」とはどのような症状なのでしょう。今回はある女優の告白とヒットマンの心理を紐解きながら、うつ病とはどんな症状なのかを考えてみたいと思います。
シニアのうつ病
高齢者のうつは、めまい・肩こり・便秘といった身体症状や、被害妄想、もの忘れに似た症状が出ることが多いです。そのため病院で初めてうつ病だとわかるケースも少なくありません。
また悲哀の訴えが少なく、気分低下がわかりにくいです。若者より抑うつ気分が軽い場合が多く、見逃されやすい傾向があります。しかし自殺を試みた高齢者が死に至る率(完遂率)は若年に比べて高いため、周囲は注意が必要です。
うつ病…女優の告白
数多くの映画やドラマに出演している女優に南果歩さんがいます。現在もテレビなどで華やかな演技を見せる南さんですが、辛い過去もありました。
彼女は渡辺謙さんとの離婚後、週刊誌のインタビューに答え「うつ病」であったことを告白しました。
有名人でうつ病であることを明かす人はまだまだ少ないです。それだけに南さんの告白は衝撃的でもありました。うつ病になったとき人間はどのような状態に陥るのか。南さんは当時の心境を明かしていました。
自分の心が動かない
自分が立っていた場所が崩れてなくなって、暗い穴の中にずっといるような感覚があったと思います。それでも毎日朝が来て夜が来て、心ってすごく不思議ですよね、心が動かなくなっちゃうんですよね。涙も出ない。自分の心がフリーズ状態になることをはじめて経験しました。(南果歩アメバブログ2018.11.30原文より)
自分の心がフリーズ状態になる。南さんはうつ病になった状態を独特の言葉で語られました。そして暗い穴の中に閉じ込められているような感覚を味わったと言います。
とてもつらい経験をしたとき、人は涙さえ流すことなく無感覚に陥る。まさにそれが「うつ病」の怖さかもしれません。
心理学的な状態
心がフリーズした状態とは認知心理学風に解釈すれば「思考がとまった」状態です。この告白を聞いたときに似たようなケースを思い出しました。それは「人を殺すとき」のヒットマンの思考です。
人殺しの思考
ヤクザ社会を長年取材しているライターに鈴木智彦さんがいます。数多くのヤクザを取材し、特異な心理に迫ってきた鈴木さんは以前、ヒットマンの心理状態について興味深い見解を示しています。
暴力団や殺人犯に話を聞き、確信したことがある。人殺しは、どこかで思考を停止させないとできない。だから俺は、決して思考停止してはならない。(鈴木智彦Twitterより2017.11.7)
映画やドラマに登場するヒットマン。現実にもヤクザ組織の抗争が勃発したときに鉄砲玉として人殺しを請け負う人がいます。鈴木さんはそうした役割を果たした暴力団員や殺人犯に当時の気持ちを聞きました。
そこで明らかになったのは、人を殺す時に自身の思考は停止していることでした。つまり人は全ての思考が停止したときに、躊躇なく人や自分も殺すことが出来る危険性を孕んだ生き物なのかもしれません。
心を閉じないこと
うつ病だった女優の南さんが語った「心がフリーズした状態」と殺人者が人を殺すときの「思考が停止した状態」はとても似ていました。逆にこの事実に「うつ病」に陥らないヒントが隠されていると思いました。
それはどんなときでも「心(思考)を閉じ込めない」ことです。大きな辛さや悲しみに襲われた時、人は誰でも心を閉じたくなります。しかし一度、心(思考)をシャットダウンすると暗い穴の中から出てこれず、さらに深みにはまってしまうのです。
あれこれ考えてしまうのは良くありませんが、一方で思考を完全に停止することは危険なのかもしれません。自殺や他人を殺めないためにも「心を閉じ込めない」がうつ病予防には大切なことかもしれません。
本日もありがとうございました。